ラジオ・八百万談話室~おまけ付き総集編~

猫乃手借太

第一回 若者の〇〇離れ(九尾の狐)

「はーいっ! 今日もこの時間がやってまいりました!」

「やってきたね」

「八百万談話室も始まって来月には第四クール目に突入です」

「おー、もうそんなになる?」

「なるんですよ。リスナーの皆さん、聞いていただいてありがとうございます」

「これからも応援するように」

「皆様から戴いたお便りを八百万の神々の方々と話していこうというこのコーナー」

「ありがたいお言葉を心して聞くように」

「私、神代祈がお送りします。今日の相方は九尾の狐、九尾さんとお呼びします」

「なれなれしくない?」

「九尾さんほどじゃないですよ。それに長い付き合いじゃないですか」

「たかだか十数年。長いっていうのはとりあえず百年を超えてから」

「百年っ! 私は人間ですよ。それは無理です」

「人間だって神になっている人もいるけど?」

「いやいや……菅原道真や徳川家康と同格はちょっと……」

「ここ千年で結構な数の人間が神格化したけど?」

「千年って軽く言わないでください。私は普通の人間です」

「そうだね」

「そこはちょっと否定してくれません?」

「えー……じゃあ超人?」

「疑問形って……逆に傷ついちゃいますよ」

「人間って未だによくわからない。ちょっと美女に化けて遊んだだけで目の敵にするし」

「九尾さん、中国の紀元前時代の話はいいですから。それよりもお便りにいきますよ」

「はい、どーぞ」

「えー、ラジオネーム『上司なんてこんちくしょう』さん……って、なんて名前だ」

「おっ! 気が合いそうだねぇ」

「『いつも楽しく拝聴させていただいています』聞いていただいてありがとうございます」

「君の選局に間違いは無いぞ」

「『先日、神社にもお参りに行かせていただきました』」

「そうか。それで賽銭はたくさん投げたのか? もちろん稲荷神社だろうな?」

「そんなこと書いていませんし、普通書きませんよ」

「しかたない。神力で探そうか」

「怖っ! えー、『最近上司から大人の身だしなみとして車を買うように言われます』」

「……どこの神社?」

「知りませんよ。『交通機関が発達しているので車はいらない気がします』」

「うーん、これじゃあ探しようがない」

「『それを上司に伝えるとニュースでもよく言っている、若者の○○離れ、と言われます』」

「しらみつぶしに探そうか?」

「『お酒や腕時計など、ニュースで取り上げられているのを最近よく見ます』」

「見つからなかったら神力の無駄か」

「『これは僕が悪いのでしょうか? どうか神様のご意見をお願いします』です」

「よし、諦めよう」

「えっ! 諦めるんですか?」

「だって見つからなかったら馬鹿みたいだし」

「見つかる? いやいや、話聞いてました?」

「ん? 何の?」

「お便りの内容ですよ。若者の○○離れです」

「あ、そっち? それならいらないもの買うほど馬鹿じゃねぇ、って言えばいい」

「上司にそんなこと言えませんよっ! 正気ですか?」

「でもいらないんでしょ?」

「まぁ、今は車がなくても長距離移動できますからね」

「いらないから買わないんだよ、このハゲ! って言えばいい」

「ハゲかどうかはわかりません、ってかそれ暴言」

「じゃあズラ?」

「ズラかどうかも……ってか、だから上司にそんなこと言えませんって!」

「人間って本当によくわからないな」

「目上の神様に暴言吐けます?」

「吐いたことあるけど?」

「えぇっ! あるんですか?」

「そりゃあるよ」

「それで? どうなったんですか?」

「日本に逃げてきた」

「ダメじゃないですか!」

「ははは、さすがに目上の神と人間を両方怒らせたら居座れなかったよ」

「笑い事じゃないですよ。国外逃亡じゃないですか!」

「でも自分の意見を言うのは大事」

「まぁ、それはそうですけど」

「それでダメならサービスか何かで持っているように装えば穏便に済むよ」

「装うって……まぁ、確かにカーシェアリングなどのサービスも利用できますから」

「ハゲズラを騙す!」

「騙すのではなくうまくその場を切り抜ける、って言いましょうよ」

「ものは言いよう?」

「はい、免許は取っておいて必要なときはサービスを利用して切り抜けましょう」

「言うことを聞くと上司の覚えも良いから、後々下克上しやすい」

「下克上って……とにかく、出費は抑えて解決しましょう」

「浮いたお金は賽銭箱へ!」

「それは皆さんの判断で、ってか国外逃亡の話とか出て、皆さんついてこれてます?」

「みんなの信仰心、待ってるからね! だからしっかりついてきてよ!」

「あはは……それでですね。若者の○○離れ、ですけど」

「うん、最近よく聞くね」

「あ、神様のお耳にも入ってます?」

「テレビで大々的に言われるとね」

「そうなんですよ。大々的に言われています。ですがこれ、実態は少し違います」

「ん? 実態が違う?」

「若者の○○離れ、ですがそもそもお酒や車は成人しないと触れる機会がありません」

「年齢制限あるからね」

「つまり新しく成人する人が一度所有してからじゃないとこの言葉は成り立たないんです」

「おぉっ! 確かに」

「若者の○○離れ、とは若年層の売り上げなどの数字が下がっているってことなんですよ」

「うんうん」

「理由はいくつかあります」

「理由ならまずは少子化だね。子供の数が減っているから売り上げが下がる」

「はい。そして社会や時代の変化もあります」

「そう言われるとタバコを吸う人間は減ったな。最近は煙管(キセル)も売ってない」

「古っ! 煙管って江戸時代じゃないですか」

「あれ? 少し記憶を遡りすぎた?」

「古すぎです。話を続けてもいいですか?」

「ああ、いいぞ」

「えー、若者に限らず全年齢での減少も、です。代替えサービスなどの拡充も理由です」

「車は電車やバスや住居の関係ってことか」

「つまり若者の○○離れというのは基本的に社会や時代の変化ということです」

「若者は悪くない」

「いわゆるレッテル貼りというやつですね」

「単純に数字だけ見て減っているからこうだ、って決めつけから生まれた言葉か」

「消極的だったり堅実だったりする若者が増えた印象からの意見でもありますね」

「年寄りが自分たちと考え方が違うって言っているだけか」

「必ずしもそうではありませんが、若者への風評被害みたいなものです」

「よし、じゃあそれも合わせて上司に言ってやれ」

「それはさすがに言わなくても……」

「今まで好き勝手に言っていた上司に現実と真実を突きつけてやるんだ」

「ダメですよ。上司との折り合いが悪くなったらどうするんですか」

「逃げる!」

「簡単に言わないでください!」

「ハハハッ、海外に高飛びだ」

「笑い事じゃありませんよ。それじゃあ犯罪者じゃないですか」

「犯罪だったけど?」

「九尾さんの話じゃありません。『上司なんてこんちくしょう』さんの話です」

「賽銭の額次第では逃走を手助けしてやれるぞ」

「しなくていいです! ってか普通は逃亡も幇助もしません!」

「稼ぎ時かもしれないよ」

「いやいやいやいや……しっかり仕事をして真っ当に稼ぎましょうよ」

「楽に遊んで稼ぎたーい」

「ダメ人間思考はやめてください。高位の神様でしょう」

「えー……」

「えー、じゃありません。後できつねうどんと稲荷寿司の定食をおごりますから」

「よーし、次行こう! 俄然やる気出てきた!」

「げ、現金ですね……」

「ほらほら、早く」

「えー、上司と良い関係を築けるように頑張ってください」

「応援してるから頑張れよ」

「『上司なんてこんちくしょう』さん、ありがとうございました」

「参拝と投稿の両方待ってるからな」

「では、次のお便りです」

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