ラジオ・八百万談話室～おまけ付き総集編～

第二十二回 お見合いと恋愛（クシナダヒメ）

「えー、今日がラジオは初めてでしたよね？」

「ええ、クシナダヒメと申します。慣れぬ故緊張しております」

「私はクシナダ様と呼ばせていただいています。では今日はよろしくお願いします」

「承りました。しかし……仕事というものは大変難しゅうございます」

「え？」

「ここへ来る道中、鬼達の仕事ぶりを拝見させていただく機会がございました」

「鬼？　ああ、今日は節分でしたね」

「一年に一度のこととはいえ、あのように豆を投げられるのはおつらいでしょうに……」

「今日だけ豆を投げられて、魔除けの飾り物で追い立てられて、ですからね」

「しかし鬼達もしっかり自らの役目を果たしておいででございました」

「今日ばかりは痛い目に遭うのが役目ですから可哀想ではありますね」

「ご立派な最後にございました！」

「ちょっと？　クシナダ様？　勝手に殺しちゃダメですよ！　鬼はちゃんと逃げますよ！」

「……今のは冗談でございます」

「じょ、冗談……口調だけじゃちょっとわかりづらいですね」

「そうですか？　それは誠に失礼を致しました」

「うーん……丁寧すぎて、他の方々とは別の意味でやりにくいかもしれませんね」

「お気になさらず、神代殿。さぁさぁ、お便りを読み上げてくださいますか？」

「あ、は、はい。えー、慣れれば、時間が解決してくれるでしょう。ではお便りです」

「待っておりました」

「ラジオネーム『恋焦恋』さん」

「こいこがれん？」

「恋い焦がれる恋で『恋焦恋』です」

「素敵な名でございますね」

「雰囲気がありますね。えー『初めまして、いつも楽しく聞いています』」

「嬉しい限りでございますね」

「そうですね。えー『私は最近婚約することができました。今時珍しいお見合いでの婚約でした。なぜお見合いだったかというと、私の人生はとにかく男っ気がなく、婚活をするにしてもまず男性との向き合い方がわかりませんでした。その不安を親に相談すると、知り合いを通じてお見合いを数件、その中で一番印象の良かった方と婚約に至りました』」

「昔は当たり前のことでしたが、現代ではお見合いは珍しいのですね」

「自由恋愛が流行ってからお見合いはあまり聞きませんね。『婚約の報告などを親しい友人や同僚にしたところ、お見合いでの婚約にみんな否定的でした。親に結婚相手を決められるのはあり得ない、自分で探さないと将来絶対に後悔する、とみんな口を揃えて自由恋愛の方が良いと言います。ですがそう言う彼女たちですが、独身も珍しくなく人によればもう結婚適齢期を過ぎているのに恋人がいない人います。お見合いが正しいとは思いませんが、なぜこんなに非難されなければならないのでしょうか？』と、いうお便りです」

「お見合いも自由恋愛も、どちらも良いものだと私は思っております」

「私も悪いとは思いません。お見合いでもいいでしょう」

「現代ではお見合いに悪い印象があるということなのでしょうか？」

「うーん、確かに親や周囲が探してきた相手ってなると良い印象がない場合もありますね」

「ですがこの方は出会いがなくて困っていらっしゃったはずです」

「はい。手段としてお見合いを選択しただけです」

「それでお相手が見つかったのですから、良いことではありませんか」

「たぶんですが、お見合いを否定している人達は嫉妬じゃないですかね」

「嫉妬……ですか？」

「はい。今まで一緒に独身だった人が急に婚約したって聞くと年齢次第では焦ります」

「心から祝福して差し上げることはできなかったのでしょうか？」

「できなかったからこうなったんだと思います」

「哀しいことですね」

「それで自由恋愛が主流の今、お見合いという非主流の方法を攻撃しているわけです」

「私は『恋焦恋』殿の婚約を心から祝福致します」

「私もこれからの幸せを祈っていますね」

「……ですが、なぜお見合いが攻撃される対象となってしまうのでしょうか？」

「結婚相手を見つけるまでのプロセスときっかけの考え方の違いですね」

「考え方の違う相手との合意は確かに難しゅうございます」

「そもそも自由恋愛が日本の風土や国民性に私は合っていないと思うんですよね」

「神代殿は自由恋愛にどのようなお考えをお持ちなのですか？」

「自由恋愛は運命の出会いや好きな人を自分で見つけるというところに魅力があります」

「そうですね。運命……美しき響きに魅了されます」

「ですが日本人は欧米人に比べて内向的で慎重な人が多いです」

「異国の方々は確かに自己主張が強く行動的に見えますね」

「自分から声をかけられない人は男女通じて恋人ができないということになります」

「私も自分から異性の方に声をかけるとなると躊躇います」

「そこでお見合いです。必然的に話す場所を周囲が作ってくれるわけですよ」

「見知らぬ異性に声をかけられない方々には確かに適しているように思えますね」

「そういうことです。内向的で慎重な日本人に自由恋愛はあまり向いてはいないんです」

「自由恋愛はいつ頃から始まったのでしょうか？」

「終戦後からバブルの間くらいだと思います。そしてそこから少子化が始まっています」

「そうだったのですか？」

「自由恋愛時代になって結婚数が減っていますからね。少子化の理由の一つです」

「理想の相手が現れるまで待っていては結婚が遅くなってしまうのですね」

「そうです。運命の出会いというものはそうそうないんですよ」

「哀しいですね」

「ええ、ですがそこでお見合いですよ」

「お見合いにも良いところはありますか？」

「はい。お見合いの長所は少なくとも周囲の人が見て悪くない人が紹介されることです」

「それは良いことではありませんか」

「まぁ、悪意や自己都合がその第三者になければ、になりますけどね」

「……人というものは恐ろしいものなのですね」

「えー、それでですね。第三者の力を借りての結婚です」

「はい」

「夫婦の危機にも第三者の力を借りて修復しやすいと思います」

「離縁の危機でしょうか？」

「現代では離婚ですね」

「ああ、そうでした」

「自由恋愛だと夫婦の問題ですが、お見合いだと引き合わせた人の責任もあります」

「相談事はしやすそうですね」

「はい、まさにその通りです。だからおそらく離婚率も減ると思うんですよ」

「良いこと尽くめではありませんか？」

「当人同士の納得や周囲の介入を嫌わないのであればお見合いも良いと思います」

「どちらも一長一短、ということでしょうか？」

「はい。良し悪しです。ですが今の日本ならお見合いの復活も良いと思いますよ」

「自由恋愛をしつつ、お見合いでも出会いを探すのですね？」

「はい。出会いの場は確実に増えると思います」

「あぁっ！　それにお見合いでお会いしたお相手が運命の方ということも……」

「はい、あり得ます」

「それはそれで素晴らしいではありませんか」

「そもそも恋愛や結婚は出会いがなければ始まりませんからね」

「出会い……ですか。そう思うと私は一目で見初められました」

「えっと、夫のスサノオ様ですか？」

「はい。恐ろしい日々でしたが……あれこそ運命の出会いだったのでしょうね」

「ヤマタノオロチへの生け贄の話が恋愛話の材料に……」

「見初められたときのことは今もまだ忘れられません」

「クシナダ様は……自由恋愛ですか？　お見合いですか？」

「私はお見合いでした。父母が結婚を決めましたので」

「スサノオ様は自由恋愛ですよね。ご自分から妻に欲しいって言ったんですよね？」

「はい。そう思うと少し特殊な例なのかもしれませんね」

「ならやはり自由恋愛もお見合いもどちらもあって良いんじゃないですか？」

「そうですね。『恋焦恋』殿のようになれる方々が増えたら良いですね」

「運命の相手をどうやって探すかは皆さん次第です」

「皆様にも『恋焦恋』殿にも幸せが訪れますように」

「『恋焦恋』さん、お便りありがとうございました。では次のお便りにいきましょうか」