第33話33 年末年始です。その1







 12月29日の午後。仁がひなちゃんを伴って帰省した。


 なんで二人一緒かと言うと、ひなちゃんと仁は婚約者だからだ。二人共まだ高校生だから、婚約なん早く過ぎると思う。


 だけどひなちゃんは「服部工業」という医療機器製造及び販売では国内トップシェアを誇る企業の跡取りなんだ。


 だから早いうちにひなちゃんにふさわしい人が婚約者に必要だったらしい。仁と付き合う事になったとたん婚約の話が持ち上がったそうな。


 詳しく事情を訊こうかと思ったけど、生々しい大人の事情を知りそうなので辞めておいた。


と話がそれてしまった。今の俺にはひなちゃんが持っている大荷物が気になって仕方ない。一つは着替や洗面道具とか入ってるバッグだろうからいいとして、もう二つは、習字道具入れを大きくしたみたいな四角いバッグ。---とてつもなく嫌な予感がするのですが。


「ひなちゃん、何なん?それ?」


「ンフフ。秘密」


 超絶可愛い笑顔だ。けどその目は、獲物を見つけたライオンのようにイキイキしてる。一体何を企んでるのさ。


「まあ、夜になったらわかるわいね」


 とひなちゃんは、大荷物を抱えて客間に入っていった。



---


 夕食前。ひなちゃんが母さんの手伝いをしてるから、いつもしてる食事準備の手伝いをしなくていい俺は、暇つぶしに仁とポシェットモンスターのゲームでバトルをしていた。


「ああん。ずるい〜そこで、ファイヤートカゲ出すなんて〜」


「油断しとる夕陽が悪い」


 ウヒヒと意地悪な笑顔の仁は、ファイヤートカゲに大技を決めさせ、俺のカミナリマウスを倒してしまった。


「負けた。俺のチュ~ちゃん。切り札だったのに」


 チュ~ちゃんとはカミナリマウスに付けた名前だったりする。俺の手持ちモンスターが全滅したため、バトルは仁の勝ちだ。うう悔しいなぁ。


ポシェットモンスターのバトルそれなりに自信あったのに。とか考えながら携帯ゲームのスイッチを切ってソフトを抜いてると、仁が優しく声をかけてきたんだ。


「もう一回する?負けたままじゃ悔しいじゃろ?」


「やりたい。でももうご飯の時間じゃろ。それならポシェットモンスターのカードゲームの方明日やろうや」


「げっ。カードゲーム。あんまり得意じゃないんよの。まあしゃあない、可愛い妹のお願いじゃし。約束じゃ。明日の夜にしようか」


「やったー。仁。大好きー」


 と仁に抱きついたら、剥がされてしまった。むぅ。最近ちょっとしたスキンシップを仁と図ろうとしたら拒否されるだよな。なんでだよー。


「夕陽。いくら兄とはいえ、年頃の娘が異性に抱きついたらいけんじゃろ」


 と呆れ顔のひなちゃんに注意されてしまった。


「えーいいじゃん。兄妹なんじゃけぇ。そいやこないだも父さん似たような事言うたっけ。なんでいけんのん?」


「……後でゆっくり話してあげる。それより夕食じゃけ、皿並べるん手伝って」


「うんわかった」


 不承不承ながらも、俺はダイニングへ向かい、ひなちゃんと母さんの手伝いをしたのだった。


 夕食後。ひなちゃんから話を聞き終え去ろうとした。


「あっほうじゃ。おばさんから伝言。明日の昼食べたら着物屋さんに行くよだって」


「着物屋さん。なんで?」


「お正月の初詣に振り袖着るからね。髪飾りとか着物の下に着る下着とか揃えるためじゃろ」


「うぇぇ。振り袖!夏に浴衣着たんじゃけいいじゃん」


「えー。可愛い格好したほうが林原くん喜ぶよ」


「うう」


 夏にも同じような事言われたのに。でもひなちゃんに逆らえない俺はしぶしぶながらも振り袖着る事を了承したのだった。






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