第22話 君が必要



「 ねぇ、父さん。俺っていつになったら、動いていいん?」

「 ……意識戻ったん、昨日なんでよ。そんなすぐに、許可出せる訳なかろうが」



いつになく、声を荒らげて答えた父さん。俺が、びっくりして黙ってると、俺が、びびったと勘違いしたのか、穏やかな口調で、話しかけてきた。


「 あっすまん。怒鳴る気なかったんじゃ」

「 いや、別にええんじゃけど。でも、こないだは、すぐに動いても、えかったじゃん(よかったじゃん)」

「 こないだは、こないだ。今回で心停止は2回目じゃ。ちいと(少し)気になる事もあるけぇ、検査せんといけん(しないといけない)じゃけ、もう2日程待ってくれや」

「 わかった」



むぅ、仕方ないか。死にかけたんだもん。主治医の言うことは聞かんといけません。


「 そんな、はぶてた( すねた)顔せんの(しないの)雫経由で、伝言じゃ。林原くん、お見舞い来るんじゃと。えかったのう」

「 ええ?!」


ええのう、青春じゃのう。と独り言を残して、病室から去っていく父さん。


俺が動けないだけで、面会の制限はしてないみたいだ。

いやいや。そうじゃなくて、拓人さん来るの?

お風呂入ってないし、髪も洗ってないから、汚ないんですけど。

看護師さんがタオルで、体を拭いてくれるけどさ、やっぱり、お風呂に入るのと違うんだよ。



―――



「はい、きれいになりました」

「ありがとうございます」


夕方。昼間の診察の時に、父さんと一緒にいた看護師さんが、体をタオルで、拭いて、ドライシャンプーていう水無しで洗えるシャンプーで、頭を拭いてくれた。


いつも、清拭( 暖かいタオルで、体を拭く事)は、朝にやってくれるんだけど、拓人さんが、俺の彼氏だと知ったとたん、特別よって言ってやってくれた。

いつもならやらない、ドライシャンプーのおまけ付でだ。


「 お父様も、もう少し気を使ってくれたら、いいのに。夕陽さん、女の子なんだから、彼氏に会うのに汚ないまま会いたい訳ないのにね」


看護師さんは、ベッドの角度をあげながら、そんな風に言ってた。


看護師さんと入れ替わるように、拓人さんがやってきた。いつも通り、白い半袖シャツに紺のズボンという制服姿だ。


「 どう調子は?」

「 熱は、上がったり下がったり。まだ動いちゃ駄目なんだって」

「 そう」


それだけ言って、拓人さんは黙ってしまう。やっぱり、こないだの虐待の話聞いて、俺とどう接したらいいのか、わからないのかなぁ?


「 ごめん」

「 みひゃ?何」



ふわっと、いきなり俺を抱きしめた拓人さん。苦しくないけど、恥ずかしいよ。


「 僕じゃ駄目?」

「何が?」

「 僕は、君に必要な人になれないかな?」

「 なれるよ。てか、俺には拓人さん、必要だよ。拓人さんは違うの?」

「 必要。僕には、君が必要」


みひゃああ! 恥ずかしいセリフをぼっと吐かないでぇぇ!


俺は、拓人さんの腕の中で、みひゃみひゃと、意味不明な唸り声をあげてた。

顔は多分真っ赤ですよ。熱とは別な意味で。

しばらく抱きしめられてたら、ちょっと落ち着いてきたのか、うとうとし始めちゃった。拓人さんの体から、かすかに香るシトラスの匂い。その匂いに安心した俺は、そのまま眠ってしまったのだった。

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