第23話23ハプニングです



入院から10日。ようやく、点滴やらその他、体にくっついていた物は外されて、自由の身になったんけど、困った事が一つだけあります。


「……汗臭い」


お風呂に入れるのが、明日からなんだ。だけど、今の俺は何処と無く汗臭い。

熱がね、下がり始めてるから、汗かいちゃうのは、仕方ないんだけどね。

でも、困るんよ。今から拓人さん来るのに。


パジャマの胸元を開けて、俺は、ふんふんと自分の匂いを嗅いでた。

――これ人に見られちゃいけない光景だよね。


「夕陽、何しよんね?( 何してるの?)女の子が、そんな事したら、いけんでしょうが(いけないでしょ)」


ノックもせずに、雫ちゃんが入って来たよ。雫ちゃんの行為にもツッコミ入れたい。だけど、俺的には、それどころじゃない。


「 だって、拓人さん、来るのに、汗臭いんじゃもん」

「 ほう?気にならんけど」


俺の体に鼻を近づけて、雫ちゃんは、匂いを嗅ぐけど、頭をひねってる。


「 まあ、お風呂入ってないし、夕陽が気にするんも、しょうがないね。ほうじゃ、ええ物あった」


雫ちゃんは、肩から提げていた学校指定のバックから、可愛いウェットティッシュのような物を取り出した。


「 汗拭きシート。あたしの使いかけで悪いけど、あげる」

「 ありがとう。これどうやって使うん?」

「 えっ普通に、体拭くだけ。皮膚が弱いと、合わん事もあるけどね」

「 ふーん」


俺は、雫ちゃんの説明を聞きながら、汗拭きシートのフラップシールを開けた。

フワリと、優しい石鹸の香りがした。


「 あっほうじゃ、あたし、買わんにゃいけん物あったんじゃ、下の売店行ってくる」

「 うん、行ってらっしゃい」


――なんか、わざとらしい気がしなくもない。まぁいいか。どのみち、パジャマ脱いじゃうから、雫ちゃんいない方がいいんだ。『 おっぱい、揉ませて』なんて、言ってくるからね。あの人。


俺は、パジャマとキャミソールを脱いで、上半身裸になって、汗拭きシートで、体を拭いていく。

コンコンと、ノックされる音がする。

どうせ、雫ちゃんだろう。俺は、確認せずに、入室を許可したんだ。


――ドサッ



「へっ?」


何か落ちた音に気づいて、顔上げたら、拓人さんが、口をあんぐりと開けて、俺を見てた。さっきの音、拓人さんが鞄落としたんだね。

なんで、そんな顔してんの?って俺。


「 みひゃああ」


上半身裸だったよ。あわてて、パジャマで、胸隠したけどさ。時すでに遅し。後の祭りだ。

バッチリ、胸見られたよね。でなきゃ、拓人さん、あんな顔しないよね。


「 なにごと?みひゃああって、夕陽の声したけど」

「 ひっひなちゃーん、助けて」



お見舞いに来てくれたらしい、ひなちゃんが、病室に入ってきたよ。

ひなちゃんは、入り口で固まってる拓人さんと、パジャマで胸を隠した俺を交互に見て、事情を察してくれたらしい。

固まってる拓人さんをとりあえず、病室から追い出して、俺にパジャマを着せてくれた。


「――どうせ、あの女の仕業でしょ」

「 あの女って、雫ちゃんの事?」

「あっ? 他に誰がおるんね?(いるのよ?)わざと、席外して、林原くんには、今行っても大丈夫的な事言ったんじゃろ。林原くんとあんたの性格を知り尽くした上での、計画的犯行じゃろ」

「 ハハハ」


計画的犯行って。ただのイタズラじゃない。それにしても、雫ちゃんとひなちゃん仲悪いよな。……似た者同士だから仕方ないか。


「 夕陽、ごめん」

「 別に、いいよ」


病室に戻って来た拓人さんは、開口一番に謝罪してきたけどさ、油断してた俺も悪いしね。事故みたいなもんかな。


「 そいや、元凶はどこ行ったんね?」

「 売店で会ったけど」

「 ほうね。へじゃあ、ちょっくら、お灸を据えに行ってくるわ」


極悪な笑顔で、病室から出ていくひなちゃん。大丈夫かな? ちょっと心配かも

ひなちゃんが、出て行って、拓人さんと二人きりになった。あのハプニングの後なだけに、ちと気まずいな。でも、知らせたい事があるから、話さなきゃ


「 あんね、明後日、退院決まったんよ」

「 そうなんだ、良かった。そういや、検査したとか聞いたけど」

「 あー、検査。大丈夫」

「 そっか」



拓人さん、めちゃくちゃ安心してる。

あと一つ言わなくちゃ。


「ねー、今度さ、三城の酒祭り行かん?」

「 いいけど、なんで?」

「 兄貴がさ、拓人さんに会いたいって言ってたし、三城の酒祭りの日って、拓人さんの誕生日なんよね」

「10月8日。覚えててくれてたんだ」

「 うん、渡したい物もあるしね」

「 そっか。わかった行こう」


やった。ちゃんとしたデートに行ける。兄貴というオマケ付きだけどね。


やっと恋人らしい事が出来ると、その日の俺は、夜になっても、ご機嫌でニコニコしてたから、看護師さん達に少し心配されてしたまったのは、言うまでもなかった。






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