第24話 24酒祭り。


10月8日。三城さんじょうの酒祭りへ行く日であり、拓人さんの誕生日でもあるのだ。

俺は、自宅マンションから、徒歩5分の所にある駅で、拓人さんと待ち合わせていた。


「 お待たせ 」

「 お早う、拓人さん」


俺は、読んでいたラノベを閉じて、リュックに収めた。

拓人さん、今日は私服なんだ。黒のパーカーとデニムパンツだ。


「 今日、気合い入ってない?」

「 そうかな?」


拓人さんに言われて、俺は、改めて全身を見る。紺色のロゴ入りの長袖のカットソーと紺と白のストライプの膝丈のスカート。本当は、グレーのワンピースと黒いパーカーを合わせる予定だったんだけど、シンプル過ぎるかと思って、こっちにしたんだ。


「 服もだけど、髪に白いリボン着けてるね」

「 似合う?」

「 うん、とっても」


はああ、良かった。この白いリボン。ひなちゃんが、『 退院祝いね。林原くんと出かける時に着けんさい』ってくれたんだ。

似合ないって言われたら嫌だなって、思ってたから、誉めてもらえて嬉しいな。


「 そろそろ時間だから行こうか」

「うん!」



ウキウキな気分で俺は、拓人さんの手を握る。拓人さん、一瞬ビックリした顔になってたけど、ギュッと俺の手をつないでくれた。


―――


電車に乗る事、約1時間。中島市 三城町さんじょうちょうに着いた。

中島市 |三城町(さんじょうちょう)は、 美味しい日本酒が、造られる酒どころとして、県内だけじゃなく全国的有名だ。


三城駅周辺は、酒蔵通りを中心に酒祭りで、賑わうんだ。

兄貴とは、駅の南口で落ち合う予定なんだけど、人が多すぎて見つかんない。


「 みひゃー!」


兄貴探して、キョロキョロしてたら、抱きしめられたし。大声出しちゃったんで、駅員さんや他の人にすんごい見られてる。俺と別れて、兄貴を探していた拓人さんも、あわてて駆け寄ってきたくらいだ。

でもね、こんな事する犯人は分かってるんだ。駅員さんが、来ちゃう前に大声で言ってやる。


「 お兄ちゃんのバカー!」


この一言で、駅員さんは、ホッとしたみたいで、業務に戻っていった。


「 兄貴、頼むけぇ、突拍子もないことせんといてや (しないでよ)」

「 わりぃ。ついな」

「 んもう。拓人さん。この変態が、俺の兄貴の平原朝陽」


変態ってひどくないー。と兄貴は、文句言ってるけど、拓人さんは、鮮やかにスルーして、自己紹介した。


「 はじめまして、林原拓人と申します」

「 どうも、平原朝陽です。にしても、格好いいねー。ウチの妹、可愛いから、やっぱり、彼氏は格好よくなくちゃねー。

仁から聞いたけど、桃宮生なんだって?」

「 はあ、そうですけど」

「 そっかー。頭いいんだね」

「 ね、兄貴、早く行こうよ」


兄貴のグダグダトークに付き合ってたら、日が暮れてしまう。

兄貴を引っ張り、酒蔵通りへ向かった。


酒蔵通りへ着くと、兄貴は、中央公園のメーン会場へお昼頃、集合なと言って、自分のお気に入りの酒造会社の蔵へ向かってしまった。


「 朝陽さん、二人きりにしてくれたんだ」

「うん、みたいだね」


俺は、去年来た時の記憶を頼りに、酒蔵通りを巡った。

酒祭りって言う位だから、未成年には楽しくないイベントと思われそうだけど、実は、そうじゃない。

食べ物を売ってる酒蔵や手作りの小物を売ってる酒蔵なんかも、あったりして、未成年やお酒飲めない人も、楽しめるようになっているんだ。

――ただ、時々、救急車のサイレンが聞こえるんだ。毎年、急性アルコール中毒になる人が、後を立たないみたい。


俺は、拓人さんをあちこち、引っ張り回し、小物を売ってる酒蔵で、猫のぬいぐるみ買ったり、所々並ぶ屋台で、食べ物を買ったりして、酒祭りを楽しんだ。


「 うあー疲れた」


さすがにはしゃぎ過ぎた。酒蔵通りから、徒歩10分位の場所にあるメーン会場である中央公園に、設けられた飲食用のテーブルに、伏せちゃった。

その隣では、すでに出来上がった兄貴が、うとうとしてる。


「疲れた?」

「うん。はしゃぎ過ぎたかも」


拓人さんが、屋台で買ってきたらしいジュースを渡してくれる。


「 ありがとう。あっそだ」


兄貴が、うたた寝してる今がチャンスだ。リュックから、丁寧に包装した物を取り出す。


「ハッピーバースデー。拓人さん」

「 あっありがとう」


いきなりプレゼントを渡されて、拓人さん、数秒程、キョトンとしてた。


「 開けてみてもいいかな?」

「 もちろん!」


拓人さんは、丁寧に包装紙を開けた。中から出てきたのは、大きな黒の巾着袋だ。


「 これって、バスケットシューズ入れ?」

「 うん。入院中に作ったんよ」


中学生から使っていたものが、破けてって言ってたから、入院中に俺が縫ったんだ。ばあちゃんから、叩きこまれた裁縫の腕前を披露出来て、俺的には、一石二鳥だったりするのだ。


「 やー、これで、理緒が使ってたダラケックマの袋から解放される」


ダラケックマって、小学生や中学生の間で流行っていたやつじゃん。拓人さん、そんなの使ってたんだ。


「 大事にするよ。本当ありがとう」


拓人さんは、そう言って、愛用してるメッセンジャーバックにバスケットシューズ入れを収めた。


そのバスケットシューズ入れは、その後、破けるたび、俺の手により、何度も修繕されがら、拓人さんが、部活を引退するまで使われ続けるのだった。




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