第25話 25透先輩と晶。


「 お早う。夏音かのん

「お早う。夕陽、晶」


朝、学校に着くと、夏音と挨拶をかわす。

退院してからの学校生活は、ごく普通に送れてる。夏音以外にも友達出来たしね。

これで、ある事がなければ、平和なんだけど。


「 晶、いるか?」


教室の入り口から、どことなく、気だるげな雰囲気の少年が、顔を覗かせている。


「 なんですか? 初瀬 透先輩」


晶は、自分の事を呼び出した少年を、そう呼びながら、睨みつけてる。


「 フルネームで呼ばんでも。昔みたいに、『 透兄ちゃん』って呼んでくれんの?」

「呼ばん! だいたい、なんで毎日、毎日、うちのクラスに来るわけ? 僕をからかいに来たんなら、早く、高等部へ帰れば! 」

「 そんなに怒らんでも、ええじゃろ」


と初瀬 透先輩は、晶にそう言ってる。怒られて、悲しいのか、やや癖のある髪をぐしゃぐしゃといじってる。

――本当、昔から変わってないよ。この人。

俺は、昔、この光景と同じ光景を見た事がある。

ひなちゃんに、同じような事してたんだけど、あまりにもしつこいんで、飛び蹴りくらってたね。


今までの説明で分かるかも、しれないけど、晶にさっきから話かけてる人は、俺達の幼なじみの初瀬 透。

昔は、晶も俺も、『透兄ちゃん』って呼んでいたけど、今は学校の先輩だから、透先輩って呼んでる。ただ、晶の場合フルネームで呼んでるんだ。

――まあ、理由はなんとなく、分かるんだけど、これの事言ったら、晶は怒るだろうな。


「 なあ、晶。なんで、昔みたいに接してくれんのん?」

「 先輩と後輩だから」

「 でも、夕陽は、昔みたいに、接してくれとる。そんなに冷たいんは、晶だけじゃ」

「……うるさい! もう、僕にかまうな!」


透先輩は、晶に怒鳴られると、しょんぼりと肩を落として、教室から出ていく。


でも、多分明日の朝には、復活して懲りずにやって来るよ。

夏音の話じゃ、入学以来、ほぼ毎日来てて、学園内じゃ有名みたいだ。



放課後。俺は、晶にストレートに質問した。



「 晶、なんで、透先輩に冷たいの?」

「 ……嫌いだから」

「 どう見ても、あれは好きだと言ってるようなものよ。晶」


一緒に歩いてた夏音は、そう言う。それには、俺も同意見だから、ウンウンと頷いてしまう。

晶は、バレてるかあと、呟いてから、自分の気持ちを吐露しはじめた。


「 本当は好きだよ。だけどさー。夏音も知っての通り、僕って元男じゃん」

「 そういや、そうね。」


夏音は、クラスで唯一、晶の過去を知っているんだ。だけど、その事を知っているからといって、気持ち悪がったりしてない。普通の女子と同じようにあつかってる。


「 その僕が、初瀬先輩に好きって告白するのおかしくない? て言うか、気持ち悪がられて、あっちが、逃げていくと思う」

「 「それは無いんじゃない」」


俺と夏音の声が被った。


「毎日さ、全身で『お前の事好きだよ』アピールしてるのに。逃げる訳ないじゃない。夕陽もそう思うでしょ?」

「 うん。だいたい、昔の事知ってるなら、近寄らないよ。告白して逃げるどころか、即オッケーだと思う」


晶は、俺達の言葉に納得したのか、翌日には、透先輩に告白してた。

この後、うざい位ラブラブな二人になったのは、言うまでもなかった。



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