第30話 クリスマスです。3
美紀枝さんが運転する車に乗って移動する事数時間。広島県のとある街に車は入っていく。
高速道路をおりて少しするとようこそ
西条は正確には西条町といい、広島県東広島市を構成する町の一つで俺や仁、ひなちゃんの故郷だ。
俺は生まれてから去年の三月の終わりまでをこの町で過ごしたんだ。
こうやって帰るのは夏から三回目だ。前なら昔の事を思い出して、いやな気分にしかならなかった。だけど今は、拓人さんと一緒だから嬉しさや楽しいという気持ちのが勝ってる。
そのせいではないけど、顔がニヤけてる。
「……夕陽、あんたさっきから一人でニヤけとるん?気色悪うてかなわんのじゃけど」
「気色悪いは余計。だって雪降りそうなんじゃもん。この寒さならふるじゃろ?」
と俺はスマホの天気予報アプリを開いて、呆れる顔のひなちゃんに見せる。アプリに表示されてる温度はマイナスを示してる。
「降るかもね。外曇っとるし。うげっ北部じゃはぁ積もっとるし。この調子じゃこっちも積もるわ。
ひなちゃんは自分のスマホアプリで広島県の天気を調べてるみたいだ。
「ねっ。雪合戦出来る?」
「さあ?そんなに積もらんのじゃないん?沢山降るみたいな事言うとらんみたいなし」
天気予報アプリと車につけられてるテレビの天気予報をを見比べながら、ひなちゃんはそう言ってくる。
「えー。ちょっと期待しとったのに。ホワイトクリスマス」
「ハイハイ。それより着くけぇ準備しんさい。ほらちゃんと上着着て。
「はーい」
拗ねたように返事をして膝にかけてたダッフルコートを俺は着る。
あーあ。雪合戦出来ると思ってたのに。まあ仕方ないか。普通にクリスマスが過ごせるだけマシか。
とか思ってるうちにひなちゃんの実家へ着いたのだった。
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車を降りると広い前庭。立派な松の木。そしてこの地域特有の赤茶色の屋根瓦が特徴のデカイ日本家屋へと入っていくと、政治おじさんが出迎えてくれた。手にコンビニ袋を下げて。
「お帰り〜。ひーちゃん。ゆうちゃん」
「ただいま。お父さん。って何お酒持っとんよ!まだ飲まんとってよ!」
「わかっとるよ〜」
と呑気な返事をして政治おじさんは茶の間へ入っていく。多分ひなちゃんの言う事なんか気にせず一人酒盛りを始めるんだろうな。政治おじさんってそういう人だから。
と政治おじさんの事はさておき、俺とひなちゃんは荷物を部屋に置くと台所へお手伝いしに向かう。
既にはなこばっちゃんが大量に唐揚げを作っているところだった。その側では美紀枝さんがポテトサラダを作っていた。
俺とひなちゃんは出来た料理を皿に盛り付けていく。
そのうち、仁や拓人さんもやってきて料理の準備を手伝だってくれた。
「今年も色々ありましたが、お疲れ様でした!それではかんぱーい」
「かんぱーい」
午後七時。美紀枝さんの乾杯の音頭で服部家のクリスマスパーティーが始まった。一応クリスマスパーティーだけど、服部家内々の忘年会も兼ねてるんだよね。ちなみに服部家は、医療機器メーカー「服部工業」という会社を経営してる。普段パーティーと言ったら会社関係だけど、この日だけは家族と家族に近い人だけでやるパーティーというかどんちゃん騒ぎなんだそうだ。
実際、ひなちゃんの言いつけを無視してパーティー前から飲んでた政治おじさんは、既に出来上がってるし、はなこばっちゃんと美紀枝さんもお酒を片手に話して盛り上がってる。ここに茂兄さんいたら政治おじさんと親子して酔っ払って大変かもしれない。
今日は他の用事とかで茂兄さんいないんだね。
その政治おじさんは拓人さんにからんでるし。
「拓人くん。ゆうちゃん泣かしたら許さいからね。いーい?復讐するからねー。ふくしゅー」
「はあ」
ジュースの入ったグラスを持ったまま拓人さん困ってる。ひなちゃんや仁も間に入りたくとも無理みたい。間に入ると余計ゴチャゴチャするからね。あっそだ。いい事思いついた♪
「政治おじさんそこどいて」
と俺は強引に体を二人の間に入れると、コタツ机に所狭しと並ぶ料理を取り皿に取り分けて拓人さんの前に置く。
「あっありがとう」
「どういたしまして。足りなくなったら言うてね」
「うん」
「ゆうちゃん、おじさんには取ってくれんの?」
「拓人さんいじめる人には取りません。それにおじさんがおったら(いたら) 拓人さんに引っ付かれんじゃろ。俺と拓人さんの邪魔せんといて!」
とグイグイと政治おじさんを押しやる。
「ひーちゃんと仁くんもいるじゃない〜」
「ひなちゃんと仁はいいの!ほらあっち行きんさいや!」
『ゆうちゃんの意地悪〜』とか言って、政治おじさんが去っていった。ちょっと可哀想だけどいいのだ。政治おじさんがいたら、拓人さんの側にいらんないし、ひなちゃんや仁とクリスマスを楽しめない。
政治おじさんを追っ払ったあとは、ごちそうを食べながらトランプしたり学校で流行ってるゲームをしたりして楽しかった。
ホワイトクリスマスじゃないしもうサンタさんがいるって信じてる訳じゃないけど、皆とワイワイ騒ぐ楽しさを初めて知って嬉しかったな。
夜九時半。寝るにはちょっぴり早いけど、夜更かしてまた熱が出たらいけないからと、早々に泊まる部屋に戻されてしまった。
「カーテン閉めとらんかった」
と窓に近づくと白い物が見える。
「雪じゃ!」
ガラリと窓を開けると雪がハラハラと舞ってる。綺麗だ。だけど閉めよ。凄い寒いけぇ熱が出ちゃう窓閉めよ。 でも明日の朝雪積もっとるの見れるかも知れない。
そう思い布団に入った俺だった。
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