第21話 21心の支え
拓人目線です。
夕陽の様態が急変した。そんな連絡を雫から受けたのは、今朝の事だ。
昨日、政治さんと美紀枝さんから、夕陽の過去を聞かされて、次会う時どんな態度で接したらいいのだろう?そんな事を考えてた矢先に、先ほどのような連絡だ。
身内の事ではないので、学校を休む訳にいかない。やきもきした気分で授業を受け、帰りのホームルームが終わると同時に、教室を飛び出した。
「 拓人、来たんじゃ」
夕陽の病室のドアを開けると学校を休んだのか、私服姿の雫がいた。ベッドの脇に座った彼女は、泣きそうな顔だった。彼女とは、中1からの付き合いだが、こんな顔を見たのは、初めてかも知れない。
B組の破天荒女と言われた彼女らしくない顔だ。
仁や晶ちゃんの居場所を訊くと、二人とも、家で待機してるとの事だ。
「 夕陽どうなの?」
「 母さんや父さんの話だと、今は落ち着いてるみたい 。今朝は、心臓が止まったりして大変だったんよ」
「……そうなんだ」
夕陽の小さな体には、点滴や酸素マスクやら色々着いてる。仁から聞かされた話だと、夕陽は何度も生死を彷徨う事があった。
けれど、何度も生還してる。前回もだ。
今回もきっと大丈夫だ。
僕は、夕陽の枕元に置かれた物を手に取る。ピンクの布にレースの着いたワンピースを着た熊のぬいぐるみだ。
熊が着ているワンピースは、よく見たら手作りみたいだ。所々破れた場所を繕ったあとが見える。
「 このぬいぐるみ。夕陽の?」
「 そう。曾祖母ちゃんが夕陽にあげたんよ。 確か、入院するたんびに、泣きようた夕陽が寂しがらんようにって」
「 そうなんだ」
「 あのろくでなしの両親は、熱が出た夕陽を、曾祖母ちゃんとおばあちゃん。曾祖母ちゃんとおばあちゃんが亡くなってからは、ひなん家に、任せきりだったんよね」
「 その話は、政治さんと美紀枝さんから、聞いた」
「 ほうなん。当時、うちの家は、平原の家から、ちょっと遠かったんよね。大人の足で歩いて、30分くらいかな。そんくらいの距離じゃ、夕陽が逃げてうちの家くるなんて無理よね」
「 そうだな」
虐待されてた夕陽。どんなに辛かったろうな。可哀想に。
「 拓人ー、今 夕陽の事可哀想って、思わんかった?」
なんでわかるんだ。この女は、こうやって、人の思ってる事を時々言い当ててくる。
「 思ったよ」
「 あっそう。他人からすりゃ、可哀想って思う境遇よね。じゃけど、夕陽の前で言ったら、多分怒るよ」
「 なんで?」
「 可哀想な娘って思われるの嫌なんだと、それよりは誰かに必要と思われる人になりたいんだって」
「 なるほど」
実は、昨日政治さんや美紀枝さんから、話を聞いた後、服部さんからも、夕陽の虐待の事訊いたんだ。
そしたら、両親。特に父親から、「 お前なんかいらん」「 ほんとは、追い出してやりたい」「 でも、追い出したら、世間に何を言われるかわからない。だから情けで、この家においといてやってるのを忘れるな」そう罵られていたと。
その反面、夕陽の双子の姉 律は、幼い体を張って、夕陽の盾になっていたらしい。罵る両親には、果敢に怒鳴り返し、暴力には、物を投げつけて応戦してたらしい。自分の力ではどうにもならない時には、裸足で服部家にまで飛び込んでくる事もあったみたいだ。
「 拓人、夕陽にとってね、この熊のぬいぐるみとね、事故で亡くなる少し前にね、律が言ってた言葉が、心の支えなんだって『 あたしいなくても、夕陽には、いつか絶対にね、夕陽の事必要って言ってくれる人が現れる』この2つが心の支えなんだって」
「 そっか」
気づいたら、面会時間が終わろうとしている。
夕陽の体調が落ち着いたら、また来る事を雫に言って、僕はおいとました。
今日の話を聞いたからじゃないけど、僕は、ある決心を夕陽に伝えようと思ったのだった。
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