目が覚めたら女子にされてた俺。

猫田 まこと

第1話 あるものがなくなっていた

あるものがなくなっていた。



「 あれ、ここ。」


 俺は目が覚めていつも寝ている自室のベッドと違うことに気づく。

周りを見たら、白い壁だし点滴が下がってるスタンドもあるし病室だよな。

いつの間に病院に運ばれたんだろ?

 俺が記憶を辿っていると、男の人の声で呼ばれた。


「 おっ気がついたか? 夕陽」

 俺の名前を呼んだのは、白衣姿の若い男性。平原朝陽 俺の兄貴で、二十七才で、十三才になる俺とは、一回り以上離れてる。ちなみに医者だ。

「 なんで、おるん?兄貴」

「 なんでって、ここ俺の勤め先の病院じゃし。それより車に轢かれたのお前覚えとるか? 」

「 覚えとる」


ていうか思い出した。確か晶の家に行く途中に車にドーンってひかれたんだった。

「 なら、体の具合はどうなんだ? なんか変なところとかないか?」

「 えーと」


 兄貴に訊かれて俺は体中を探る。

頭や顔に触れるとごわごわした布の感触がある。多分ケガした所に巻かれた包帯やガーゼだろうな。

けれどある場所に触れた瞬間俺は固まる。

無い。――生まれて十三年近く、一時も離れずにあったはずのアレがない。

俺は恐る恐る兄貴に訊いてみた。

「 あのさ、アレが無いんじゃけど。なんで?」

「ああ。 俺が、手術で取ったけん無い」

「 ちょっと、なんて事してくれてるんだよ」

「 だって、夕陽。お前、本当は、女の子だもん」

 はい? 俺が女の子ですと? 何をおっしゃいますか兄上。自称天才の変人だと思ってけど、ついにおかしな事思い付いて俺を女の子にしたんじゃないよな。とか考えたけどそんな訳じゃないみたい。

 いつになく真剣だもの。

「 今から、理由を説明しちゃるけぇ、よう聞けよ」

「 うん」

 だけど兄貴はすぐに話始めない。

なんで質問してみた。

「 俺が、本当は女の子ってどういう事?」

「 話せば、長くなるけどいいか?」

「 うん」


 勿体ぶってないで、さっさと話してくればいいのに。


「 あれは、お前と律が生まれた時の事だよ」


兄貴は話し始める。ちなみに、律というのは俺の双子の姉だ。一年前に事故で亡くなってるけど。

「 お前達が生まれた翌日にな。いつもなら、たいぎい ( めんどくさい)って言って、ひ孫が生まれても顔を見せないひいばあちゃんが珍しくやって来たんだよ。顔色変えてな」

「 うん。それで?」

「 お前と律を見るなりこう言ったんだよ。『 同性の双子は片割れの性別を変えんといけん』って、何言ってんだよ、ひいばあちゃんって、俺は、笑ったの覚えてる。だけど、ひいばあちゃんは、真剣な顔で俺と母さんに平原家の秘密を話始めたんだよ」

 兄貴の話によると兄貴と俺の一族つまり平原家の先祖は、信じられないけど、なんらかの理由で、異世界からやってきた吸血鬼らしい。吸血鬼―ダン・ホワイトは、助けてくれた女性と結婚する。やがてその女性との間に子どもが生まれた。双子の男の子だったそうだ。

ダンは生まれた自分の子どもを見て困惑した。なぜなら同性の双子で生まれた吸血鬼の子は、双子のどちらかが、片割れを吸収してしまう。そうして、双子がひとつになる事で一人前の吸血鬼になるんだそうだ。

だがダンはそれを望まなかった。

この世界で生きてく為に吸血鬼である必要はないからだ。

ダンはそこで思いつく。見た目だけでも一時的に性別を変えてしまえばいいと。思春期になる頃に戻す事を条件に、ダンは生まれてきた息子の片割れの性別を魔法で作り変えたらしい。

思春期になる頃に戻すのは吸血鬼は、思春期を迎える頃に完璧な姿にならなければ、普通の人と同じように血を吸わなくても生きていけるからだ。

以来、平原家の血をひく同性の双子の赤ちゃんは魔法で性器を作り替えるという事が行われてきたらしい。

俺も性器を作り替えられた一人って事なんだそうだ。

 俺が男の子になってた理由は分かったけど、まだ納得出来ない部分もある。俺は納得いかない気持ちをぶつけるように兄貴に質問した。

「 つうかさ、男に体を作り替えたんなら、えと、アレを取ったくらいじゃ、女の子に戻れないよな?」

「 ああ、アレは、外側だけだったんよ」

「 どういう事?」

 俺アレから毎日排尿してたんだよ。なのに外側だけってどういう事だ?

 兄貴は咳払いしてから訊いてくる。

「 学校の保健の授業で、男の体の仕組みとかは、教わったよな?」

「 うん。まあ」

「 ならいい。 魔法で男性器に作り替えれるのは外側だけなんだよ。実際検査してみたら、お前の中には、卵巣とか子宮とか確認出来たしな。」

 へー。そうなんだ。って、


「 兄貴。いつそんな検査したんだよ」

「 お前が、事故で、運ばれてきた時にどさくさ紛れに」

「 おい。いいのかよ」

「 アレを取る手術も検査した後に、チョチョっとな」

「 そういう事して、大丈夫なん?」

「 俺って天才だから、大丈夫!」

「そういう問題じゃのうて(なくて) ああもういいや」

 もう、ツッコミ入れる気力もありません。

でも、ひい祖母ちゃんが、、魔法で男になったんなら、魔法を解除する方法あるんじゃねーの。俺は、そう思って、兄貴に訊いてみた。

「ひい祖母ちゃんが魔法かけたんなら、戻す方法あるんじゃねえの?」

「 あるには、あるんだかな。一族で唯一魔法が使えた曾祖母ちゃんは、亡くなる前に今魔法について書き付けを親父に託してたみたいなんだよ。だけどなー」


兄貴は、へらりと笑って俺から目を反らす。――何か隠してるな? 


「 まさかぁ思うけど、ないなった(なくなった)とか言わんといてよ」

 俺はジト目で問い詰める。兄貴は、ヘラヘラと笑ったまま弁解をし始めた。

「 そのまさか。いやー、去年親父やお袋と律のさ、実家で遺品を整理しとる時に間違えて捨ててしもうた」

「はああ? なんでそんな大事な物もん捨てるんよ~。兄貴の馬鹿~」

 俺の絶叫が病室内に響く。どうにか動く右手で兄貴を掴んで揺さぶる。

「 ホンマ信じられない。兄貴の馬鹿!どうすりゃ、そんなお間抜けな事出来るん? 教えてぇや。」

「 そんなにギャーギャー喚かんの。過ぎた事なんじゃし。俺が手術で元に戻したんじゃけ問題ないじゃろ?」

「 そういう問題じゃありゃせんわ!」

 天国の曾祖母ちゃん、このくそ兄貴は貴女の労力を無駄にしやがりました 兄貴の夢に出てお説教してください。

兄貴をガミガミと叱り飛ばしながら、俺は曾祖母ちゃんにそんなお願いをしていたのだった。

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