第31話 クリスマスです。4



パーティーの翌日。昨日雪降ってたから寒い。しばらくお布団の中でぬくぬくぬくしていたいけど、雪が積もってるかどうか確かめたい。よし。起きよ。そう気合いを入れて、お布団を跳ね飛ばすようにして俺は起きた。カーテンを開けて確かめてもいいけど、どうせなら縁側から見た方がいいか。

 隣で寝ていたひなちゃんはもう起きてるみたいだ。お布団が部屋の隅に畳んで置いてある。まだ六時なのにな。珍しい。七時くらいまでは寝てるのに。とか考えつつ、お布団を畳んで着替えた。今日は白いタートルネックのセーターに赤いチェック柄のスカートだ。足にはタイツを履く。

 洗面所へ行こうとブラシや白いリボンを手にしてふと思い出した。――昨夜仁とひなちゃんが話していた事を。

 ウトウトしてたらコソコソ二人がこんな会話を交わしていたのが聞こえてきたんだ。

 はっきり全部聞こえた訳じゃないけど、「けっこんの約束で結んだリボン」とか「夕陽の手に渡っとる」とかひなちゃんが言ってるのが聞こえたんだ。――この二つのセリフから察するにひなちゃんは、幼い頃からずっと大事にしてたこのリボンを俺にくれた事になる。そんな大事なリボンを着けるのもな。かと言って着けたりしないのも、くれたひなちゃんに悪いしな。

「あっくまさんに着けよう」

 と俺は着替えの入ってる鞄からくまのぬいぐるみを取り出す。曾祖母ちゃんから貰ったくまのぬいぐるみ。抱くには小さいけど、鞄に入れとくには丁度いい大きさ。お守り代わりに連れて歩いてるからちょっとボロい。そのくまのぬいぐるみの首の所にひなちゃんから貰ったリボンを結んだ。うんいい感じになった。

これで無くす事もないはず。

 とそんな事をしていると、部屋の外からひなちゃんが呼ぶ声が聞こえてきた。

「夕陽、起きとんならはよ支度しんさい(早く支度しなさい) 雪積もっとるよ」

「あっうん」

 俺はブラシと拓人さんから貰ったリボン付きのヘアゴムを持って洗面所へ向かったのだった。


―――


「凄い。真っ白じゃ〜」

「そこまで積もってないけど  ね」

 と苦笑いしてる拓人さん。確かに1センチか2センチくらいしか積もってないけど、俺にとっては十分な積雪量だ。

 まあただ、外に出る前仁に言われたけど、雪合戦は無理だよな。量が少な過ぎるよ。

「さっ雪だるま作ろうか。早くしないと時間なくなっちゃうぞ」

「あっうん」

 拓人さんにそう促されて、しゃがんで雪を集め始めた。

俺の体調が悪くならないようにと、拓人さんと十分だけって決めたから早くしよう。

 それにしても雪の上歩いた事あまりないから知らなかったけど、歩く度にキュッキュッって音がするんだ。

 それが面白くて履いてるムートンブーツで何度か踏んでみたんだ。ほんとはそこら中走り回りたいけど時間ないから無理だね。雪を踏んで遊ぶのを辞めて雪だるま作りに専念する。かき集めた雪で雪玉を二つ作り、それを上下くっ付けて完成だ。

「夕陽みたいに小さな雪だるまだな。まぁもっと大きなの作ろうと思ったら積雪が20センチか30センチないとね。それに転がさないといけないから人手もいるしね」

「ほうなん。じゃかまくらも作れる?」

「かまくらかぁ。どうだろう作れるのかな?昔、桃宮市で40センチくらい積もった時は作れたらしいけど」

「そうなんじゃ。かまくら作ってみたいな」

「今度沢山積もった時な。ほら十分たったから、中に入ろう」

と拓人さんは俺の手を引いてくれる。そんな拓人さんの手を握り俺は心の中でお礼を言った。恥ずかし過ぎて誰にも言った事ないけど、毎年俺はクリスマスプレゼントに雪が欲しかったんだ。理由は誰かと一緒に雪だるま作りや雪合戦がしたかったから。だけど毎年クリスマスの頃は病院のベッドの中。そんな夢叶う訳もないと諦めてたけど、今年その夢が叶った。だから雪だるま作りに、たった十分でも付きあってくれた拓人さんに感謝してるんだ。ありがとう拓人さん。どんなクリスマスプレゼントよりも嬉しかったよ。

 

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