第12話12 病気の事
平原家の倉庫は、農家だった頃、納屋として、農機具等をしまっていた場所をそのまま利用してるんだ。だからなのか、よくわからないけど、倉庫だけ電気が通ってない。おかげで、昼間でも懐中電灯のような小さなライトが、必需品だ。
「 暗い」
「 ちょっと待ってて、ライト点ける」
ひなちゃんがライトをつけると、ところ狭しと並べられた、掛け軸やら陶器や磁器の器といった物が、姿を現した。
「 うわ、こりゃ凄いな」
「 曾祖父ちゃんと曾祖母ちゃんの道楽により集められた物。一回鑑定してもらったらしいけど、八割方偽物らしいんよね」
「 あっそうなんだ」
拓人さんは、呆れた様子だけど、曾祖父ちゃんや曾祖母ちゃんが健在だった頃は、そこそこ羽振りが良かったみたいなんだ。だから、道楽でこんなに、骨董品集めても平気だった。
でも、落ちぶれちゃったのは、恥ずかしながら、俺の実の父親が、曾祖父ちゃんやお祖父ちゃんが苦労して大きくした会社を潰してからなんだ。
平原家は、元々は、農家だったんだけど、曾祖父ちゃんが、工務店を立ち上げて、一代で大きくしたらしいんよね。
――過去話は、このぐらいにしといて、目下の目的は、例の手記の捜索だ。
「 こんだけ物のが山積みだと、探すの手間だよな」
「 そこは、この暗い倉庫がダメダメな仁に、魔力を提供させて、作らせました。じゃじゃーん。魔力探知機 ベタなネーミングだけど、私の
と見せてくれたのは、どっからどう見ても、紙飛行機だ。拓人さんも俺もそうツッコミ入れたけど、ひなちゃんは、細かい事気にしないと言って、紙飛行機を飛ばす。
普通に飛ばした紙飛行機なら、すぐに落ちるはずなんだけど、ひなちゃんが飛ばした紙飛行機は、フワリフワリと、何かを探すように、倉庫内を一分以上飛び続けて、ある場所で落ちた。
――ここだけの話、意思を持ってるように飛んでる紙飛行機は、ファンタジーな光景を通りこして、ホラーな光景だ。まぁ、暗い倉庫内だからしょうがない。
「 とにかく、あの一帯を発掘するか」
発掘。確かにそうかも知れない。紙飛行機が落ちた場所だけ、異様に物が山積みになってるし。
拓人さんが、大きな物を順々におろしていった場所を俺とひなちゃんが、細々した物の中から探し出すという作業を続ける事、約一時間。
「 見っけたどー」
ひなちゃんが、一冊の革製の本を掲げて叫ぶ。俺と拓人さんは、それぞれ安堵の息をついた。
「 見つかって良かった」
「 やれやれ、良かった」
暗い倉庫内から出て、俺達は、平原の家の縁側に座って、手記を読む。
「 うわ、なんて書いてあるのか、さっぱりだな」
「うん」
革製の本には、アルファベットに似た文字で、みっしりと書き込まれてるけど、一文字足りとも読めない。
「 二人には、さっぱりよね。大丈夫。
ひなちゃんが、そう唱えて、文面に触れたとたん、アルファベットに似た文字が日本語に変化したんだ。
「 先祖が発明した魔法だよ。こうしたら、読めるでしょ」
ひなちゃんは、魔法を発動した状態で、ページを捲っていく。俺と拓人さんも目で追っていく。
「 服部さん、ストップ」
「 このページじゃね 。俺の病気について書かれとるの えーと、『魔力過多症とは、通常より多くの魔力を保有するが、魔法能力を持たない為、本来魔法を行使する事で、消費されるはずの魔力が、魔力能力を持たない為に、魔力が消費されず、魔力が体の内にこもり、体内で暴走する事である。』だって」
「 うーん、目新しい情報は無いね。ミカンから聞いた話とさほど変わらないな、強いて言えば、魔法能力を持たないから、魔力が使えないって事だけだな」
拓人さんの言う通り、ミカンから聞かされた話とさほど変わらない。魔法能力を持たないから、魔力を使えないってのは、新たな情報だけど、俺にとって、知っても無意味な情報だ。
もし俺に、魔力能力があるなら、魔法に関する知識を継承するって意味で、曾祖母ちゃんから、魔法の手解きを受けたひなちゃんや仁から、魔法について教わる必要があるからだ。それに、俺が知りたいのは、こないだみたいに、なんも前触れもなく、死にかけた理由だ。
「 やっぱり、俺の知りたい情報は無いんかねー」
「 そうでもないよ。ほら読んでみ、ここ」
「 えーと、『十代初めの子供が、突如、体調に変調をきたし、亡くなりかける場合がある。それは、第二次性徴期による体の変化に伴うものである。女なら』あー、恥ずかしくて読めない」
「 あーもう。こんくらい( このくらい )学校の保健の授業でなろうたじゃろ(習ったでしょ)貸して、私と林原くんで、読んで、あとで教えてあげる」
ひなちゃんと拓人さんは、俺抜きで、手記を読みすすめてたんだけど、だんだん顔が真っ赤になり、ついには
「 だああ、こんなん読めるかー」
「 うちのご先祖は、何を考えとんよ。こがいな事(こんな事)ご丁寧に手記に残さんで、ええんじゃー」
「 えー何なにー?」
「 夕陽は、まだ知らなくていい」
「 ほうよ。お子さまは、読んだらいけません」
「 えー?」
二人は、手記を隠してしまう。どうしてだろう。
「 まあ、要するに、夕陽が一歩大人に近づいたって事よね」
「 ほうなん( そうなの)」
そのあと、ひなちゃんの実家に戻って、ひなちゃんから、学校の保健の授業で習った事に加えて、俺の病気についてわかった事を説明されたけど、この時の俺には、さっぱり分からなかった。
本当の意味で、俺の体の変化について、理解するのは、もう少し先に起こる出来事での事だった。
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