第2話 2 女の子ってその1




病院で目覚めてから数日。怪我や手術した所を兄貴に診てもらってる最中だ。


「 いたあ(痛い)事はないか?」

「 まだちょっとだけね。あんさ、兄貴。少し前からちょっと気になる事があるんよね」

「 何や? 言うてみ?」


大した事じゃないけど、病院にいる内に治せるんなら治しときたい。そんな軽い気持ちで兄貴に訊いてみた。


「 あんね、胸の先が痛いんよ」

「 いつ頃から? どんな感じで?」

「 小学校の卒業式前くらいから。シャツが擦れたりした時に」

「 小学校の卒業式って、はあ三ヶ月近くたっとるじゃないか。なんで、早く言わんのや。悪いけど、ちょっと見せて」


兄貴は、顔色を変えて俺のパジャマを捲ると、手袋をはめた手で触ったりしてる。――ずっと痛いなあって思ってたけど、そんな大変な事なんだろうか?



「 ――胸が膨らみはじめとんよ。変じゃと思わんかったん? 周りの子と違うなって思ったりせんかった? ( しなかった?)」


呆れ顔で兄貴は、俺のパジャマを直しながら言ってくる。――全然思ってなかったよ。もともと女の子なんだから、まあ兄貴の言う通りの現象が起きるのは当たり前なんだよな。



「 なんか膨れとるなーとは、思ったけど。だって、皆、制服着とるけぇ、体型比べる事ないんじゃもん」

「 あっほうじゃった」


兄貴は、しまったと頭をかく。俺の通ってた小学校というか、俺が今住んでる中島市の小学校は制服があるんだよ。

どこも一緒で、紺の上着に下は、白いポロシャツに女の子なら、肩ひも付きのプリーツスカート。男の子なら紺の半ズボンだ。学校に寄って細かいルールは違うけど、俺の通っていた小学校は、紺の上着の下に紺のベストかセーターの着用を認められてたから、女の子もそれなりの大きさじゃないと、胸が膨らんでるかどうかなんてわからない。ましてや、体育の日なんかは、体操服を下に着てっちゃうからますますわからない。


「 はあ、夕陽がわかってなかったんは、この際いいとして、もうすぐ六月じゃけ、薄着になるんよのー。そしたら、ブラジャー付けんといけん」

「 うぇー? マジで」


ついこの間女の子って知ったばかりなのに、ブラジャーとかハードル高過ぎじゃないか。


「 そうは言うても付けんと。――まいったのう。こればっかしは、俺が買ってきてやる訳にゃいかんし。買いに行くのついていく訳にもいかん」

「 ええー。俺一人とか無理ー」

「 誰もお前一人で、行けとは言うとらん。瞳子とうこ叔母さんに頼んどくけぇ、心配するな。ついでに、あの話もしてもらわんといけんし」


兄貴の最後の一言が気になったけど、俺は付ける事になるブラジャーがどんな物か気になって、瞳子とうこ叔母さんに会う日まで、その一言の事はすっかり忘れていたのだった。

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