第28話 28 クリスマスです。1



12月に入って初めての日曜日。夏音かのんと期末テストの勉強を俺の部屋でしてた時の事だ。



「 夕陽、クリスマスは林原さんと過ごすの?」

「ふへ?」



間抜けな声が出ちゃった。だって夏音に訊かれるまで、クリスマスの事なんか全然考えてなかったんだもん。

というかこの季節は、ほとんど入院してて、ベッドの上だった。だからって訳じゃないけど、クリスマスとかお正月の楽しみって、いまいちピンとこないんだよな。

とか考えていたら、夏音が恐る恐ると一言。


「 もしかして、何も考えてないの?」

「 うん 。だって、冬の間はほとんど入院しとったけぇ、クリスマスやお正月は普通に過ごした事ないしね。それどころか、雪も見た事ないんよね」

「 ……そうなの 」


夏音黙っちゃった。まあ普通、クリスマスやお正月は、家族とか友達と過ごすもんだもんね。俺の場合、さっきも言ったけど、持病による発熱で入院してた。

とはいえ、病院内でもクリスマスの時は、簡単なイベントがあったし、お正月の飾りなんかもあって他の子達は楽しそうにしてたっけ。

でも俺の場合、熱が上がったり下がったりを繰り返してて、それどころじゃなかったんだよな。

その事を思い出していたら、夏音が口を開いた。


「 でも今年は入院してないでしょ。だったら、林原さんをクリスマスのデート誘ってみたら?」

「 へっ?俺が! 誘うの?無理!」

「 でも林原さんの誕生日には、デート誘ってたわよね?」

「 ほうじゃけど ( そうだけど)あれは、実の兄貴が拓人さんに会いたいという理由もあったからなんよ 」

「 そう」


夏音が呆れた顔で見てるよ。でも今言った事は本当だもん。

でなきゃ自分から誘うなんて無理だよ。

とか思ってたら、夏音からグサッと刺さる一言を頂戴してしまった。


「 でも誘わない事には意味ないわよ」

「 うう 」


夏音てば痛いとこ付くなあ。でも夏音の言う通りだよね。


「わかった。誘ってみるよ 」

「 頑張ってねー。誘えたかどうか明日きくからね」


と夏音は、ニヤリと意地悪な笑顔でそう言った。

それにしても夏音変わったよな。出会った頃は、『なんであんたが林原さんの彼女なの』ってつかかってきたのに。

今じゃ俺の事応援してくれてる。夏音が背中を押してくれたんだ。頑張って誘ってみよう。よしこの後メールしてみるか。


―――


翌日。昨日あれから拓人さんにメールしたんだけど、拓人さんも期末テスト前で忙しくて返信する暇がなかったと、今朝になって拓人さんから返信があったんだ。

クリスマスデートに関しては、今日電話で話そうかってなってた筈なんだけどねぇ。

何故か俺も拓人さんも示し合わせたかのように俺の実家に来たんだ。

でも、仁とひなちゃんも期末前みたいで二人きりで勉強中だった。悪い事しちゃったかな。



「 拓人。お前学校違うじゃろ、なんでおるん?(いるの?)」


と飽きれ顔で仁は拓人さんに訊いてる。


「 妹と妹の彼氏に、勉強教えてくれって言われるのが、嫌で避難してきたんだ。僕も期末近いからね。仁のとこならゆっくり勉強させてもらえるかと思ってさ」


答える拓人さん。どこか疲れた顔をしてるのな。妹さんと攻防戦が繰り広げられたのかな? いや多分違うな。仁には妹を強調してるけど、多分勉強を教えて欲しかったのは、妹さんの彼氏さんだろうな。妹さんは社会がちょびっと苦手なだけで、拓人さんに『 勉強を教えて!』せがむ程じゃないらしいからね。

仁はそれを知ってる筈なんだけど、追及せずに納得したみたいで、俺に質問をふってきた。


「 あっほうなん。で、夕陽はいるの?」

「 俺は、雫ちゃんから逃げてきたの……勉強してて、わからない所を教えてもらおうとしたら、お礼にゴスロリの服を着ろって言われたから。それが嫌で勉強道具を持って、避難してきたん」


そう。雫ちゃんは、いつの間に手に入れたんだか知らないけど、黒と白のフリッフリのワンピースを手にこれを着ろと笑顔をで言ってきたのだ。挙げ句のはてには、『お姉ちゃんのお願いきいてくれないの』ときたもんだ。

と説明したら仁は納得したみたい。

結局俺と拓人さんも一緒に勉強する事になったんだ。


そうして午前いっぱい勉強して、めったに気をきかせない兄貴が昼食にと用意したピザと烏龍茶で食べていたら、ひなちゃんがこう言った。



「急な話じゃけど、クリスマス。私の実家でクリパやるんじゃけど、林原くんと夕陽も来ない?」


「 えっ、僕が行っても大丈夫なやつ?」


拓人さんは身構えてそう訊いてる。まあこう見えてひなちゃんは、医療機器メーカー『服部工業』の社長令嬢だ。

クリスマスパーティーと聞いて身構えるのも仕方ない。多分ドレスとかスーツ着た人がうじゃうじゃいるのを想像しちゃったのかな? でも心配無用だ。


「 勿論。パーティーって言っても、身内だけの無礼講。じゃけ大丈夫」

「 じゃ、お邪魔させてもらおかな」

「わかった。うちの親に伝えておくね」


とひなちゃんは、スマホでメールし始めた。

って親返事してないけどいいか。どうせ行くってわかってるだろうし。

それにしてもひなちゃん家のクリスマスパーティーかあ。

無礼講って言ってけど、文字通り無礼講だろうな。

普通のクリスマスデートもいいのかも知れないけど、仁やひなちゃんと一緒なのもいいかも知れない。早くクリスマスになればいいのに。そう思った俺だった。


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