第17話 17 水をぶっかけられました。



「 なんじゃろね、この分かりやすい、嫌がらせは」

高宮さんと口論した翌日。下駄箱を開けたら、リアルなおもちゃのクモさんと押しピンが、入れてありました。

それも、ただ入れてあるんじゃなくて、押しピンは、左のくつにぎっしりと詰めてあるし、おもちゃのクモさんに至っては、右のくつに二匹無理やり、詰め込んであるし。


「 クモさんは、益虫だから殺したらいけんよって、ばあちゃん言うとっけ」


俺は、ひとり言を言いながら、クモさんと押しピンを鞄に片づける。

下駄箱の前から、動かない俺を不信に思ったらしい晶が呼びにきた。



「 夕陽、教室に行くよ。何やっとん?」

「 クモさんと押しピンが、入れてあったんよ」

「 高宮か。あいつ、陰険だな」



晶は、『高宮のやつ、とっちめてやる』って言うけど、俺は止めた。

こういうのって、騒いだりしたら、相手の思う壺じゃないかな。俺は、毅然としてればいい。


プンスカ怒る晶を宥めながら、教室に入ると、高宮さんとその仲間達に囲まれたよ。


「ごきげんよう。音無夕陽、下駄箱に何か入ってなかったかしら?」

「入っとった」


――この娘、自分から、言ってきたし。

普通、こういう時って、自分からは、ばらさないし、問い詰められても、しらばっくれたりするんじゃないの?


「 で、林原さんと別れる気になったかしら?」

「ぜんっぜん」

「 なんでよ?」


――なんでよ?って言いたいのは、こっちなんですけど。あれくらいの嫌がらせで、拓人さんと別れる程、やわな神経じゃない。


「 あっそう。別れるまで、嫌がらせしてあげるわ、覚えてらっしゃい」


行くわよと、仲間を引き連れて、去っていく高宮さん。

彼女は、一体何がしたいんだろう? 拓人さんと別れさせたいってのは、わかるんだけど、堂々と嫌がらせするって、宣言しちゃうのってどうなんだろう。



その日のお昼休み。お弁当を食べたあと、トイレに行った帰りの事。


「 うわ、冷た!」


頭から、冷えたお水をぶっかけられた。

結構な量をかけられたらしく、ブラウスはもちろんの事。スカートまでグッショリ濡れた。ポタポタと雫を滴らせながら、顔を上げたら、高宮さんの取り巻きの男子二人だ。


「 わりぃ、あまりにもチビなもんで、見えなかった」

「 そうそう」


ハハっと、笑いを残して、男子二人は、去っていく。


「最低 」


今日体育は無いから、当然体操服は持って来てない。晶もクラブとか入ってないから、体操服持ってないんだよな。

だから着替えれない。雫ちゃんに借りるという手もあるけど、高等部は、午後から授業ないんだっけ。雫ちゃん家に帰ってるよな。

ヤバいな。この前兄貴がつけてた俺の行動記録(別名妹バカ日誌)を解析した兄貴から、体を冷やす事は、俺の病気の症状が出る原因の一つだから、禁止されたんだけどな。


高宮さんは、俺がちょっと困ればいい位の気持ちで、あの二人に命令したんだろうけど、俺にとっては大問題だよ。


「仕方ないな、このまま授業受けるしかないか」


俺は、制服が濡れたまま授業受けたけど、案の定、翌日、高熱が出たのは言うまでもなかった。




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