第12話「どういうことですか神様!?」
宗が目を覚ますと既に夜は明けており、あらわになった全壊した砦を背景に、正座して平謝りするゆうと、瓦礫から引っ張り出して来たのか椅子に座ってぐったりと休んでいるアオと、何事もなかったかのように怪鳥の肉を焼いているミカの姿があった。
「おはよう皆」
「あ、神様! っておはようじゃないですよ!」
身を上げた宗に真っ先に駆け寄ってきたのはゆうだった。喜んでいるのか笑いつつ、心配し過ぎたのか目に涙を浮かべつつ、迷惑をかけてしまったからか眉根を寄せるという複雑な顔で飛びつくものだから、宗はどうしていいかわからずそのまま押し倒されている。
「ゆう、重いよ」
「断じて重くはないですが、神様無事で何よりです。そしてご迷惑おかけしました!」
「気にしなくて良いよ。でも気を付けてね」
「はい神様!」
宗が覆いかぶさっているゆうの背中をポンポンしていると、いつの間にか歩いてきていたアオがそっと正面に片膝を立てて座り込んだ。宗はその様子に目を瞬いて、例の不調は大丈夫なのだろうかと観察してみる。
目立って辛そうには見えないので落ち着いたのだろうか。それでも先ほど椅子に座っていた感じでは消耗はしているように見えたので、昨日のダメージが尾を引いているのだろう。
「なんですかアオさん物欲しそうに。もう血はダメですからね!」
「大丈夫。あなたと違って、もう充分頂いたわ」
「どういうことですか神様!?」
「ええっと、どういうこと?」
今更ながら何故片膝立ちなのだろう。アオはまるで騎士や従者の誓いみたいなポーズで傅いていた。
「私、どうも宗の眷属になったみたい。責任、とってくださいね……?」
「え。ど、どういうことですか神様!」
「さぁ……」
顔を上げたアオは微笑みながら立ち上がり、ひらりとその場で回って見せる。その動作でスカートがふわりと揺れ、とても優雅なダンスのようだ。
「日の光も大丈夫になったみたい。昨日の血が馴染んだのかしら」
「ああ、じゃぁゆうと一緒だね」
「一緒にしないでください!」
「ゆうも、僕の影響で幽霊から今みたいな存在に成ったし。アオちゃんも多分?」
首を傾げる宗に、アオも釣られて首を傾げてしまう。お互いに詳細をわかってはいなかったが、アオはただの吸血鬼ではなくなったようだ。
「おーい、肉焼けたぞー」
「あれ、ミカくんも大丈夫なんだ?」
「ミカは、私とペアの存在だから。おそらく、私の存在が崩壊しなかったのはミカが居たからこそじゃないかと。おかげ様で、宗の力と均衡がとれて、その効果がミカにも馴染んじゃないかしら」
大きく切り分け、そのまま焼いただけの鳥肉を運んでくるミカも太陽の下で問題なく動いている。大きな円形の盆に肉の塊を三つほど乗せたミカは、やってくるなりあたりを見回し困り顔だ。
「あー、テーブルもなくなってたんだっけか昨日ので。どうすっかなー」
「うぅ、わかりました。私が何か探してきます」
「お、いいのか? んじゃよろしく」
何やら昨日の一件に責任を感じていたゆうは幽体化して瓦礫の山と化した砦へと飛んで行った。あれだけ派手に崩壊した場所に、使えそうなものは果たして残っているのだろうか。
ゆうを見送ったあと、宗はアオとミカに向き直って会話を続けることにした。聞きたいことがいくつかあったのだ。
「ところで二人とも、昨日の人間と関わって来なかったって嘘でしょ?」
「……どこで気づいたのかしら」
「血を飲むの手慣れてたし」
「嫌なところを見ているわね宗。そうよ、あれは嘘。本当は人間たちと関わり過ぎて、いいようにやり過ぎたから、こんな変な呪いをかけられたの。罰としてね」
「罰としてなんだ?」
もう嘘を吐く気はないのか、アオはばつの悪そうに話し始めていた。ミカはミカでようやく話せるのかと言わんばかりに鼻息荒く言葉を引き継ぐ。
「ひでぇよなー。普通呪いたって、罰なら条件とか明確に教えてくれるもんだぜー」
「人を救わないと死ぬ、かぁ。その経緯から考えると、人をより知って共存できるようになれって意味かな……?」
「そうなん?」
「真意はわからないけど、どちらにしても昨日までの方法じゃ呪いは解けないんじゃないかな」
罰としてそんな呪いをかけたのなら、宗には何か教訓が含まれているように思えた。そこに辿り着き、身を持って理解した時にしか呪いは解けないのではないか。少なくとも昨日までやっていた方法では……。
「それは困る」
「僕も困る」
「……どうして宗が困るのかしら」
「二人が僕の眷属になったのなら、僕の問題でもあるし、それに」
「それに?」
「二人には何でもいう事を聞いてもらわないといけないしね」
「うえーい! 覚えてた!! まぁさ、昨日のあのやり取りで何となく、この方法じゃダメなんだってわかったけどさ。え、それを教えるためのやり取りだったんじゃなく?」
「その意味もあったけど、それとは別に約束は約束だよね?」
「ぶはっ!! この神様意外と鬼畜じゃね!?」
「何の話……?」
一人事情を把握できずに首を傾げるアオに、ミカが昨日あったことを説明した。逃げ回っている時には既に意識が朦朧としていたアオは細かいやり取りまでは覚えていなかったらしい。
「ああ、それで。多分だけれど、宗の血が入ったうえでその返答が主従関係の契約みたいな扱いになったんじゃないかしら」
「へー、なるほどなぁ。ってそれでいいのかアオ!?」
「今更よミカ。それに、私たちの呪いを解くためにも、悪い選択肢じゃない気がするわ」
ちらりとアオは宗の顔を見やる。不可抗力でこうなったとは言え、あのままここでお騒がせ二人組として活動しても呪いは解けなかっただろう。それに、太陽の下を出歩けるというのも悪くない。
「うんじゃぁ。二人には僕らの旅路を手伝ってもらおうかな」
「まじか。下僕? 召使?」
「お手伝いさん。というわけで、まずはテーブルを作ろっか。あっちでゆうが崩れてないものを見つけられるとは思えないし」
「わかったわ宗。これから宜しくね」
「ま、アオが良いならいっか。んじゃよろしくな宗!」
アオと、料理を持ったままのミカはいそいそと材料になりそうな木を切り倒しに行った。二人の力ならそうかからずにテーブルくらいできるかな、と宗は自分の枕元でずっと黙っていた海を拾い上げる。
「……やれやれ。これで愉快な仲間たちがまた増えたってぇわけかい」
「そうみたいだね」
「宗さんよ。オイラも眷属なのかい?」
「どうなんだろう? でも、昨日はありがとう」
宗が持ち上げた海に向かってお辞儀をする。海はしばし黙ったあと咳払いのような声を出し、露骨に話題変えてきた。
「見てみろよ宗さん。嬢ちゃん気に病み過ぎだぜ。オイラの力でちょいと鎮めてやってもいいかねぇ」
「いいと思うよ」
「振るってはくれねぇのかい?」
「ゆうの、やってしまったことに対する気持ちも、海の何とか落ち着けてあげたいという気持ちも、どちらも尊いものだと思うから、僕は見守るだけだよ」
「そいつが神さんの、すたんすって奴かねぇ。ま、そういうことならオイラもほどほどに。やらせてもらうかねぇ!」
宗が見守る中、海は久方ぶりに自分の判断で、自分のやりたいように力を放つ。それは優しくふわふわと漂って、瓦礫の中を彷徨う幽霊なゆうへと向かっていった。
こうして、お騒がせ吸血鬼二人組として付近の人間たちに“何がしたいのかわからない恐怖”を与えていた元凶は居なくなり、宗たち一行の旅は新たな賑わいと共に進むのであった。
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