第23話「私も頑張りますよ神様!!」

「なんで動かないんでしょうか」

「近衛兵、とか?」


 目的の大きな建物の前で、宗たち三人は歩みを止めていた。あのあと通路に居た骸骨たちは一気に居なくなったのだが、目的の建物内部では骸骨がぎっしりと詰まったまま出てこないのだ。

 流石にあの数と交戦を始めれば、人払いの結界程度では抑え切れず、どんどん周囲の骸骨を呼んでしまうだろう。


「あての本能が、そうさせたのか……」

「あっちの人形は警戒しているってことでしょうか」

「何年も経っているから、別の存在になりつつあるのかもしれないね。呪いの人形と、御神体としての人形。別のものとして扱われてもう何年になるの?」

「あてにもわからない。あてには、もうあてが必要ないっていうことなのか?」

「そんなこと、ありませんよ!」


 腕の中で不安そうにしている人形を、ゆうは何度も撫でていた。そのたびに、人形の心はとても温かいものに包まれたが、一度持ってしまった不安は簡単には消えない。


「ともかく、ここは私が囮になるしかありませんね」

「え、ゆうが?」

「ですよ。だってそうじゃないと人払いの結界を維持しつつ人形さん運べませんし、神様じゃ戦えないですし。いざとなったら離脱、も私ならできますから!」

「あてのためにそんなこと」


 腕の中で自分を見上げる人形に微笑み返し、ゆうは人形を宗へと手渡した。そのまま必要のない準備運動をミカの見様見真似で始め、大剣を呼び出してポーズを決める。


「気にしないでください! これは神様と私のためでもあるんですから。それじゃぁ神様、人形さんのこと頼みます!」

「うん。ゆうも、気を付けてね」

「ゆう、さん。あても、頑張る。頑張ってくる……!」

「はい! こっちの人形さんと無事仲直りしてくださいね!」


 宗と人形は脇にあった別の建物の中へと退避し、その場にはゆうだけが残された。人払いの結界を離れたことで、建物内の骸骨たちはゆうを見ていたが、動こうとはしない。


「良いんですか私を追わなくて。私こういうこともできるんですよー?」


 ゆうは幽体化し、潜った。そして地下室、人形が安置された部屋へと顔だけ出してあっかんべーをする。

 地下室にも予想通り多くの骸骨たちが立ち尽くしていたが、顔だけをゆうに向けて来て、ゆうは内心震えあがってしまった。それでも、頑張らなければ。


 地上に戻ったゆうを、今度は骸骨たちも放っておかなかった。ぶつかり合わないようゆっくりとした動作で建物から出て来た骸骨たちは、一定数が出て来てから一気にゆうへと走り出す。


「意思統一されていませんかこれ!?」


 言いながらゆうは路地を駆け、その場を離れていった。骸骨の大部分がそれを追い、走って行く。

 あまり近い距離で交戦して吹き飛ばしては宗たちの邪魔になると判断したゆうは、しばらく骸骨を引き付けて走り、大通りに出たところで大剣を骸骨へと向けた。


「さぁ行きますよ!」


 飛び掛かって来た骸骨に対し、ゆうは自分の周囲を一回転させるように大剣を操作して薙ぎ払う。胴体部分を砕かれた骸骨は反時計まわりに振られた剣の勢いに弾かれ、周囲へと飛び散った。


「……これ、ずっと剣を振り回しているだけで良いのでは?」


 学習しない骸骨たちは立ち上がるたび、また何十体もの骸骨が同時にゆうへと飛び掛かるも、その全てが横薙ぎにされた大剣に砕かれながら弾かれていく。あまりに手ごたえがなさ過ぎて、ゆうとしては拍子抜けである。


 と、剣を振り回しながら前進していたゆうだったが。その足首を、砕けて散っていた骸骨の残骸が掴みにかかる。

 急に足が上がらなくなり何事かと思った時には遅かった。飛び掛かかってくる骸骨たちに大剣を振るいながら足下を確認し、ゆうは息を呑む。


 自分の両足首に残骸となった手がいくつも、次々と群がって、まとわりついていたのだ。


「ひっ、ひぃぃぃ!!」


 思わず悲鳴を漏らして周囲に目を配れば、気分爽快に弾いていた飛び掛かる骸骨たちとは別に。残骸となった骸骨たちがずりずりと這うように、上半身だけとなった形でどんどん集まって来ている。


 いくつも群がって来る上半身のうち、一体がその手をゆうの胴体へと絡め始めた。その間も何十という骸骨が飛び掛かってきているため、大剣の手を休めるわけにもいかない。


 大剣は念動で動かし、目線は飛び掛かる骸骨を相手にしているため、どうにか群がる上半身骸骨を剥がさねば、と焦るゆうは素手でぺしぺし群がる手や骸骨の頭を叩いたり引き剥がそうと掴んだり。


 しかし、悲しいことに人間の少女と変わらぬ腕力しかないゆうでは、じわじわと登って来る骸骨をどうすることもできなかった。

 ここは一度離脱を、と飛び上がろうとしたゆうは、しがみついてきた骸骨たちの重さで飛び上がれないことに気付いて更なる悲鳴をあげる。絶体絶命である。

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