第22話「能力向上ですね神様!」
立ち昇る煙を割って突進してきたのは3体の骸骨だ。瓦礫を乗り越えるのに時間がかかっているのか、出て来る数はまばらでミカとしては助かっている。
煙のせいでこの先に何体の骸骨が待っているのかまでは見えなかったが、どうせ見えたところでげっそりしそうだし、と気にしないことにした。
右端の骸骨を戻したボールで吹き飛ばし、ミカは真ん中の骸骨へと飛び蹴りを入れて頭を弾く。倒れ込む骸骨に乗るように着地したところで、左の骸骨がタックルをしかけてきた。
ミカは冷静にそれを避け、すれ違いざまに足を引っかけて転ばし、戻って来たボールをキャッチしながらもがく最後の骸骨の頭を蹴り飛ばした。
右に居た骸骨が立ち上がり、態勢を立て直す前に再びボールをぶつけて頭を弾く。この間の交戦と合わせて、ミカは骸骨の特性を何となくだが掴んでいた。
いくら砕こうと崩そうと復活はするが、持ち前のパーツがある限りそれが戻って来るまでまともに動かない。優先順位は生者への攻撃より、自己修復。つまり今ある頭を弾いて遠くへ飛ばせば、しばらくの間無力化できるということだ。
その実験もかねた攻撃は成功。最初の一体は頭を飛ばすまですぐ立ち上がって居たが、最後の一撃以降、その場でもがくだけのオブジェクトとなっていた。真ん中と左の二体は頭を外してからまともに動いていない。
「良し、これなら海の出番はねぇかもな!」
「んだとぉ? オイラここまで気合入れて来たってのに、そいつぁあんまりだぜぇ」
ミカが戻って来たボールをキャッチし、構えながら海と話していると。再び煙を割って今度は5体ほどの骸骨が現れた。
「今度は5体ね。よゆーよゆー……?」
「おいおい、まずいんじゃねぇかいこいつぁ」
前方に構えをとっていたミカに対して、左右の建物や裏路地を通って、何体もの骸骨がやってきた。それも全員走り込んでのタックルである。
ミカは前後左右からの攻撃をその場でジャンプして避け、続いてどんどんと溢れてくる骸骨を見て表情が引きつった。
「海、頼むぜ!」
「くあああああ!!」
空中で左手の海をミカは一振り。狙うは崩れた建物の反対側、退路の確保だ。海の奇声から狙った一帯へ気持ちを鎮める力が放たれる。
その力に晒された途端、走っていた後方の骸骨たちはまるで力が抜けたかのように崩れ落ちていく。その様子は、走っていたものが急に力なく地面に転がって行くのもあってか、まるで骸骨たちが一斉に転んだかのようにも見えた。
「よし、今でぇ!」
「おっけー!」
ミカは蝙蝠の折り紙いくつかに押してもらい、出来たばかりの退路へと着地し、そのまま一気に走り出した。飛行する蝙蝠を使えばゆうのような浮遊こそ出来ないが、一瞬だけの大ジャンプや空中での方向転換くらいなら出来る。
走りながら後方確認をして、倒れ伏した骸骨の様子を見るミカ。海の力を受けた骸骨たちはその場に座り込み、こちらを追ってくる骸骨たちに巻き込まれてされるがままとなっていた。
「あれは、効いたのかね?」
「おう。効いたみてぇだな。昂ってた執着を鎮めたってぇだけだが」
「わかるん?」
「振った直後はなぁ。あそこまでいくつもの恨みに紛れちまうと、もうわからねぇ!」
「じゃぁどのくらい無効化出来ているかはわからんなー」
「うむ!」
ミカは反転し、再び突出してきたいくつかの骸骨を蹴り倒し、頭部分を弾いていく。後方は既に骸骨たちの波といった有様で、流石に追いつかれたらどうしようもない。とはいえ、あまり本気で逃げて人形が居る付近の骸骨を釣れなくなっては囮の意味がなかった。
「くっそー、感知能力さえあればなぁ」
「おいおい、その蝙蝠をいくつか飛ばして偵察はできねぇのかい!?」
「あ、できるわ」
「できるんかい!!」
ミカは言われてはじめて気が付いた。そもそも自分の能力行使について、そこまで真面目に考えてこなかった。宗たちと出会った時なんてボールは投げたまま戻ってこない代物だったし、まだまだ発展途上である。
「っていうかそうだよ。会話できるじゃん飛ばしておけば!」
「なんでぇそんなこともできるのか!」
「そうだった。いやアオに言われた時は距離が離れ過ぎてダメだと思ったんだけどさ。考えてみれば中継すればいいんじゃね?」
「オイラに聞かれてもわかるわけねぇな!」
「ま、やってみますかね!」
ミカは骸骨たちを翻弄しながら、蝙蝠を10匹ほど空へと放つ。これまで離れたところで話しをする相手なんて居なかったから試そうとすら思わなかった。必要に迫られてふと思いついたのだ。
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