第21話「派手に行くそうですよ神様!」
「楽しそうねミカ。囮だなんて嫌がるかと思ったのに」
「そうか? まぁちょっと前の俺ならそうだったかもなー」
結界を構築し終え、一息ついたアオは楽しそうに準備運動をしているミカに声をかけていた。
にやけながら身体をほぐすミカに対し、力を使い過ぎたアオは息も乱れ、地面に座り込んでいる。今回の結界はそれだけ力を込めたものなのだ。
基底とした宝石は特大のものを使ったから、気配を隠して反転の力も一切及ばず。それでいて侵入しようとしてくる骸骨を拒絶するようにした守りの結界だ。
「でもさー。俺ら若干、自分たちの力を持て余してたところあるじゃん?」
「そうかしら」
「世界に俺らだけ居ればいいと思ってたし、そのためにしか力を使う気はなかったし。人を救ってたのも呪いで死にたくないし失いたくないだけでさ」
「それはそうかもしれないわね」
言われてアオも考えてみる。確かに、自分たちにはそういうところがあった。なまじそこそこ強力な地位に居たのもあって、特に苦労をした覚えもない。そもそも苦労をするようなことはたいてい見合わないと見切りをつける性格だ。
これまではその我儘が通じる世界で生きて来たのだ、と自分が今回張った結界を見ても思う。ここまで力をかけて結界を張る事なんてこれまでなかった。額に汗するほど、力を使いきって座り込むほどの目的をもって動いたことがない。
「でさー、成り行きとはいえ眷属になって。色々と力を使うハメになったけどさ。それが、どうにも。楽しい」
「楽しい?」
「これまで受動的に力は使って来たけど、何かのために挑戦するようなことなんて、なかったじゃん! それが、何か無性に楽しいんだよね」
「ああ、そうか。私もそうだったのかも。眷属として力を尽くすだなんて。これまでのリスク管理を考えれば、自分でもおかしいと思ってたのよね」
しみじみとアオが頷いた途端、
「くああああ!!」
という奇声が鳴り響いていた。
「驚かさないで頂戴、海」
「なんでぇなんでぇ。聞いてりゃ青臭いことばかり言いやがってぇ。てめぇら一体いくつなんでぇ! 聞いちゃいられねぇぜ!!」
今回、ミカと一緒に囮となる予定の海がバックパックの上で吠えていた。
相手に生者への恨みがあるのなら、海の感情制御が一時的に通じるかもしれない。恨みという原動力を鎮めれば、一時的に動きを止めることが出来るだろうという判断だ。
「悪かったわね未熟で」
「おいおい何もオイラ悪いだなんて言ってねぇぜ? いいじゃねーかいくつになっても成長できるなんてよぉ。ただちょっと、こっぱずかしいから他所でやってくんな!」
「他所なんて無茶いうなよなー。さって、準備も出来たことだし行くか海!」
「おうおう。こちとら何時だって準備万端でぇ。まさか戦闘に駆り出されるだなんて思っちゃいなかったがよ! ここで退いてちゃ漢が廃るってぇもんよ!」
「海、あなた男だったの……?」
「性別なんてねぇな!」
よくわからない啖呵を切った海と、神様がこしらえたお守りを握りしめ、ミカは無数の折り紙を纏って結界の外へと出て行った。
お守りは鉤爪のような形をした石で、宗たちが勾玉と呼んでいる代物である。目論み通りなら反転の力を緩和するはずだ。
残されたアオは先ほどの気付きを振り返り、この成長を噛みしめるためにも乗り切らなければと気合を入れる。
アオの残りの仕事は逃げ込んで来たミカを回復させ、なるべくここに留まらずに出られるようバックアップすることだ。そのためにも今は消耗した力を回復させなければならない。
結界を出たミカは真っ直ぐにゆうが言っていた大きな建物へと向かっていた。人形の感知範囲はよくわからなかったが、とにかく近づかなければ生者に気付かないだろう。かと言って結界から離れすぎれば逃げ込めないので難しいところだ。
そうミカが思っていると、割と早く反応は訪れた。カバーしているのは反転の力を和らげる宗のお守りだけであり、こちらの気配は良く届くのか、建物に近づく大通りの二本手前のあたりで、地面から手が突き出し始める。
「さーて、派手に狼煙をあげますかっと!」
「いいねぇ。派手なのは好きだぜオイラ!」
左手に海を握ったミカは右手を振りかぶり、思いっきり折り紙のボールを目の前の建物へとぶつけた。軽い衝撃音と共に簡単に壁に穴が空き、ボールは中へと進入。そのまま内蔵蝙蝠で飛ばし続け、ミカはわざと片側の壁だけを崩していく。
土を固めて乾かしただけの建造物に柱はなく、壁を崩された建物は自重に耐えきれず斜めになっていき……、やがて全体が崩れ落ちるように道側へと倒れ込んでいた。
地響きと砂埃をあげて道へと投げ出された建物は衝撃によってバラバラとなり、這い出てこようとしていた骸骨たちを下敷きにしてしまう。
立ち昇った砂埃の視界に、揺れる人影のようなシルエットが映っていた。いくつも映ったそれはやがて煙を割って、その真っ白な身体を現す。他の場所から這い出て来た骸骨たちが乗り越えて来たのだ。
ミカは次々と砂埃を割って突進してくる骸骨たちに、いくつかのボールを舞わせながら戦闘態勢へと入ったのだった。
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