第20話「完璧な作戦ですね神様!!」

 三日後、宗たちは再び廃墟となった街へやって来ていた。相変わらず砂に覆われた街並みは、三日前の狂乱が嘘だったかのように静かに佇んでいる。あれだけ居た骸骨の姿も何処にも見当たらなかった。


「本当に大丈夫なんだね」

「あてのことはあてが一番わかるんだ」


 一行は再び丘の上へと陣取って街の様子を窺っている。前回と同じ轍を踏みそうな位置に再び陣取れたのは、人形との話し合いで骸骨の特性が知れたおかげだった。


 人形の力によって「死」が反転した骸骨たちは生きているわけでもないし、死霊術によって使役されているわけでもないらしい。

 ただ徘徊し、その囚われた苦しみから「生」を妬み求めて群がるだけで、明確な命令や意志を持っていないなら十分対応できる相手だ。


「それじゃぁアオちゃん、よろしくね」

「ええ、そっちは任せるわ。ミカ、大丈夫そう?」

「おう。前回に比べれば対策も立てられたし、余裕だろ!」


 アオはその場に結界を敷き始め、ミカはこの三日折り続けた折り紙を確かめてから準備運動を始めている。宗は背負っていたバックパックを降ろし、その上に手製のお守りをいくつか置くと、人形を抱えたゆうを引き連れて丘から退避した。


 作戦は人形を邂逅させコントロールを取り戻すという単純なものである。骸骨がそういう存在ならば、宗の人払いの結界だけで十分避けることができるはずだ。

 ただ、自分たちから近付くため気配は消せても全ての骸骨を避けるのは無理だろう。


 そこでアオが完全な拒絶と気配遮断の結界を張り、安全地帯からミカが出撃して囮となる。反転の力は宗の造ったお守りで緩和しつつ、まずくなったら結界に逃げ込んでは回復していくという戦い方だ。


 敵陣に入り込む宗たちは万が一の場合ゆうの飛行能力で離脱出来るし、アオが張る結界は前回の即席と違って強力なものなので反転しただけの骸骨に侵入されることはない。完璧な作戦だった。


「ゆうの言っていた建物までもう少しだと思うんだけど」

「居ますね神様」


 裏路地を迂回してゆうが人形を見つけた建物へと近づいていた宗たちは、路地に立ち尽くし揺れている何体もの骸骨を前に足を止めた。宗の人払いの結界のおかげか向こうはこちらに気付いていないようだったが、どちらにしてもこれでは通れない。


「あてには感知能力があるわけじゃない。ただ、半覚醒状態の身を守る本能で、周囲に力が漏れているんだと思う。えとえと、多分だけどね?」

「まぁ予想通りでしたね神様」


 骸骨たちが全て消えているとは思っていなかったからこそ、宗たちは裏手に回っていたし、表でミカに囮をやってもらうのだ。ただ生者に惹かれて群がるのならば、わざわざ路地を迂回していこうとはしないだろうし、大丈夫だろう。


 そう思った途端前方の先、建物の向こうで派手な炸裂音が響いた。ミカが動き始めたのだ。これで目の前の骸骨たちもきっと――。


「あれ、何かこっち見てませんか……?」

「うん。本当だ」

「あても、なんだか嫌な予感がする」


 裏路地を埋め尽くしていた骸骨たちは、一斉に宗たちの方へと走り出して来た。すかさずゆうは右手に宗を、左手に人形を抱え込み、少々強引に飛び上がる。

 強引な掴み方で今にも二人を落としそうだったのもあり、長距離は飛べない。三人は転がるように屋根へと上がっていた。


「どうしてこっちに!」

「人払いの結界は、効いてるみたい。見て二人とも」


 三人の見下ろす先で、骸骨たちは裏路地を通って分散し、大通りに出てから表方向へと全速力で駆け抜けて行く。こちらに気付いた様子はないので結界は通用しているようだ。


「通路とか走り方だとか、生前の記憶も多少はあるのかな」

「こういう時、神様を念動力でえいって動かせれば楽なのに!」

「無理だと思うよ」

「ですよねー」


 ゆうの念動力は霊的な力のない物体や自身の出した剣などは動かすことが出来たが、生物のような霊的な力をもつ者には通用しなかった。残念なことに自我がある人形も海も持ち上げることはできなかったので、こういう時は不便である。


「あれが、あての招いた結果なんだね」

「それは違うよ。あれは言いつけを守らなかった側の責任だ」

「そう、だとしても。あての力だから……」

「大丈夫ですよ。きっと神様が何とかしてくれます。ね、神様?」


 ゆうは腕の中で項垂れていた人形の頭をそっと撫で、宗に向かって笑いかけた。宗はひとつ頷いて見せ、三人は走って行く骸骨が途切れるのを待った。

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