旅の仲間たち
第5話「見てください神様!」
「見てください神様、空が青いですよ!」
「そうだねぇ」
「見てください神様、木々が茂って先が見通せないくらい立派な森ですよ!」
「そうだねぇ」
「見てください神様、またさっきつけた目印ですよ!」
「そうだねぇ」
いくつかの特性以外はただの人間の子とそう変わらない一人と、いくつかの力以外はただの浮遊霊とそう変わらない一人は完全に迷子となっていた。
飛んで道を見ることが出来るという慢心と、弱りはしても餓死はしないという緊張感の欠落により、二人の旅路は割と適当だった。
「二人の旅ってのはよ、いつもこんなか?」
「いつもは! もっと順調です」
最近新たに加わった仲間のひとつ、今は外が見えるようにと少年宗の背負った大荷物に括りつけられた金槌の海は呆れたように言う。ある程度村を離れるまでは中で大人しくしていたので、ここまでの道中は海もよくわかっていない。
「まさか森の中にここまで強力な結界が張ってあるなんてね」
「本当ですよ! 神様がついていながらこんなことになるなんて!」
少年宗と幽霊少女ゆう、そして付喪神の海は次の噂を追って旅を続けていた。なんてことのない人助け、あるいは問題解決。そのうえで人の手に余るような、特殊な事案。それを追って今日も街道を往く、はずだったのだが。
「もっと弱っちいのを想像してました。まさか飛べなくなるなんて」
「森に入った途端だったよね。僕も、ここまで影響を受けるなんて新鮮」
「あの、神様。もっと危機感を持ってください。なんで楽しんでるんですか!」
隣でぷりぷりと怒るゆうに宗は笑って誤魔化す。力が弱まり、ほぼ人の子と変わらないとは言っても特性や性質は変わらない。だからこそ、こうして結界の影響を受けるというのは宗にとって珍しい経験だった。
「おいおい。旅立って早々遭難全滅なんてやめてくれねぇか」
「その点は大丈夫ですよ海さん。多分」
「多分ってなんだよ」
「私たち人間じゃないですから、餓死とかそういうのはないです。ただ弱って動けなくなって、何年も地縛霊みたいになる可能性はありますあります」
「勘弁してくれよお!」
命に関わる、ということがないせいか二人の危機感はやっぱり足りない。神様に怒ったゆうでさえ、まぁ何とかなるかなという思考がどこかにあった。
海はそんな二人の様子を見て旅の初心者として色々と不安になったが、道具である自分に何かできることはない。付いていく相手間違ったかも、と一瞬考えたとしても後の祭りだった。
「見てください神様、海さんにまで呆れられてますよ」
「そうだねぇ」
「見てください神様、またさっきの空き地ですよ」
「そうだねぇ」
「見てください神様、モンスターですよ」
「そうだねぇ」
「ね。そうだね。じゃないですよ!?」
一行が何度目かの徘徊をもって、森の切れ間のような空き地に出ると、そこには一体のモンスターが立っていた。
自然火か何かでぽっかりと木々がなくなった地帯は新たな命の温床となる。一部の地域では焼畑など管理のもとで行われることだったが、ここでは自然に起きたことだろう。
日光を遮る大きな木々がなくなり、その灰などの肥料によって背の低いいくつもの植物が育ち、多くの動物がその恩恵を受けるという循環。それを目当てに人から見て育ち過ぎた害獣、モンスターと呼ばれる存在がやってきていた。
問題は、今の宗やゆうは食物連鎖の何処に居るのか、である。モンスターは両足と尻尾で身体を支え立っていたが、一行を見つけてすぐに姿勢を低くし始めた。頭を垂れた、わけではないだろう。
頭胴長3mはありそうな巨大な怪鳥。強靭な両脚は地につき、上半身が灰と茶の毛と羽根に覆われ、下半身はむき出しの爬虫類のような形で、鱗に覆われた尻尾を持つ変わった鳥である。
爪、脚の一撃。尻尾の一振り。鋭いクチバシ。どれをとっても人間には致命傷になりかねない。安心点は前腕が翼でも退化していて飛べないことくらいだ。
「見てください神様、攻撃態勢ですよ!」
「僕たちってひょっとしておいしそう?」
「何でちょっと嬉しそうなんですか神様! 霊体化できないんですよ!?」
足先の鉤爪でがりがりと地面を削り、今にも走り出して来そうな怪鳥は、真っ直ぐに狩り易そうな小さな獲物を見つめていた。
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