第17話「骨じゃらじゃらですよ神様!」

 ゆうが上空から砂丘に近づくと、その中腹に小さな結界が張られているのが見えて来た。中は見通せず白く濃い霧が固まったかのようになっているが、直径5mほどしかないそこに骸骨が群がっては次々と弾き出されているのが見えている。


「神様ー!!」


 ゆうは迷わず突入していた。霧を抜けてまず視界に飛び込んで来たのは、こちらを見上げて来たアオの目線。そして、その周囲に散らばったおびただしい骨の数と、アオの反対側で戦うミカの姿。それと、それらに守られるようにしゃがみ込んでいる宗の背中だった。


 アオと合った視線は一瞬。すぐにアオは正面から入って来る骸骨たちへと飛び掛かる。一撃で弾き飛ばし、その反動で次の骸骨へ弾丸のように飛んでいく。

 結界の力でどうにか踏ん張ってはいたが、ゆうにはその動きが精彩さに欠けているように見えた。確かに素早いが、動きが乱暴で余裕がない。ゆうは着地より前に決断した。


「皆さん私に捕まってください! 空から離脱します。神様、私に力をください!」


 言いながら着地したゆうに、まずバックパックを背負った宗が飛びつく。最も非力となるため背中へおんぶのようにしがみ付いた。

 バックパックは正直邪魔だったが海が再び括りつけられているので廃棄するわけにもいかない。外している余裕もないし、呪いのアイテムを骸骨に与えるのは危険な気がした。


 次いでミカとアオが息を合わせたかのようにゆうの脚に飛びつき、ミカの残っていた蝙蝠が周囲を蹴散らして爆発を起こす。その隙に、ゆうは飛んだ。

 真上へ飛び上がり、霧を突破する。流石に重量オーバーではあったが、そこは宗が増幅の力で支えていた。


「ひえっ……」


 上空に飛び上がり、ゆうはまたしても悲鳴を漏らしてしまう。眼下に広がる、骨の海。蠢くそれらはついに足の踏み場がなくなったのか、上空までじゃらじゃらとぶつかり合う音を響かせていた。


「あっ……」

「危ない!」


 結界を出たことでこれまでの疲労と、人形の力を受けたアオが落ちかけ、ゆうは両手で右脚からアオを抱えあげた。お姫様抱っこである。


「ゆう、早く離れよう。近くに居るだけで二人は衰弱していくみたいだ」

「えぇ!? な、なんですかそれ。まぁ言われなくても離れますけど!」


 ふらふらと蛇行飛行しながら、ゆうは廃墟を離れていく。骨は最初こそ下をついてきてはいたが、人形から遠く離れる力はないのか深追いはして来なかった。


「確か、この位置関係だとこのまま右に飛べば街があるはずよ」

「わぁ、アオさんわかるんですか?」

「旅人なら普通よ……。それより、あれが人形の力だとしたら。とてもじゃないけれど私たちの手に負える規模じゃないわ」


 人形から離れ“反転”の力の影響が抜けたのか、アオは回復してきているようだ。脚から落ちかけるほどに衰弱しているのを間近で見ていたため、ゆうはほっとして、その油断で飛行ががくりと揺れる。


「おいおい、落ちる時は言ってくれー?」

「ミカ、振り落とされないようにね?」

「おう! 思ったより柔らかくて快適だぜ」

「左脚だけ幽体化しましょうか!?」


 ふらふらと高度を下げながら、どうにか普段の調子を取り戻す一行だったが、あれだけの力を見せつけられたのもあってか若干無理におどけている部分もあった。


「あの規模と、受けた感じだと多分だけど。神代の力な気がする」

「神代の力ですか? 神様」

「うん。僕とゆうに影響がなかったことを考えても、多分」

「ねぇ。どうして二人に影響がないと神代の力、ということになるのかしら?」

「ああ、それは……。ごめんゆう、僕そろそろ」

「あ、神様もうちょっと! もうちょっと粘って頂けると!」


 宗の増幅は限界だった。背中に乗った宗がぐったりと荷物に潰された途端、ゆうは失速。一気に急降下し、あと一歩で草原というところで、その手前の沼地へと突っ込んでいた。

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