神様くんと幽霊ちゃん

草詩

はじまりはじまり

第1話「次の村が見えましたよ神様!」

 この世界にはかつて多種多様な神様がありました。


 そこには人と寄り添い、広く信望され敬われし神様もあれば、恨み疎み全てを呪う神様や、およそ関わりというものを持たぬ理や条理のような神様まで。雑多で賑やかな神様たちで溢れていたのです。


 いた、過去形です。それはもはや昔の話。


 過去にあった“最悪”全てを滅ぼそうという強大な力を前に、神様たちは頑張って。頑張って何とかしたけれど、それで姿を消してしまったのです。全てではないですが、そのほとんどが御隠れになられて。


 それから幾星霜もの時が流れ――。これは少しずつ戻ってきた神様たちの、そんなお話です。


~~~~~~~~~~


「神様ー! 次の村が見えてきましたよ!」


 大声を上げながら、楽しそうに浮かぶ半透明の少女が居た。赤色の綺麗な長髪をなびかせ、悠々と地上2mのあたりを飛んでいる。手でひさしを作り、遠くに見える村がよくわかるようにか左右に揺れている姿は天真爛漫、とても元気そうだった。


「はいはい。ゆう、スカートであんまり飛ばない方がいいよ」


 少女、ゆうに神様と呼ばれた少年は苦笑しながらも後に続く。青みがかった白髪で、大きなバックパックにこれでもかと荷物を背負った少年はゆっくりとした歩みだ。

 対して少女は自分が飛べるからか、すぐにでも村まで飛んで行きたいといった様子である。


「ゆう、そろそろ実体化しないと怪しまれるよ?」

「えー、歩くの面倒くさいですよ神様」

「僕はずっと歩いて来てるんだけど」

「しょうがないですねー」


 言いながらも嬉しそうに、ゆうは地面へと降り立ち、普通の少女となった。半透明だった全体は普通に色付いていき、少しだけよろめいた。


「おおっと、久しぶりの地面なので何か変な感じです」

「練習しないとね」

「はーい。まぁ、こうして地面とか風とか、再び実感できるのは神様のおかげですからね。しがない幽霊の身としては有難いことです」

「そう思うならもっと歩こう」

「それとこれとは話が別です」


 良い笑顔で胸を張って言う少女はいつものことだったので、少年はやれやれと首を振りつつ、前方に見えてきた村へと視線をやった。山道を抜けて辿り着く先にある村は、村としてはそこそこ大きい。


 森の合間、ぽっかりとあいた平地にあったのは自然発生的な集落ではなく、開拓拠点として設営された村だった。いずれ街へとなる、そんなこれからの活気に溢れるはずのこの村にはある噂がある。


「本当にありますかね、呪われたハンマー」

「どうだろう。まぁ、僕たちは僕たちの事をやるだけだよ。あ、あと呼び名に気を付けて」

「はい神様。じゃ、なかったそうちゃん?」

「どうして疑問形なの」

「ずっと神様って呼んでるので」

「十代半ばの女の子が、十代前半の男の子を神様って呼んでいたら変に思われちゃうよ?」

「別に良いですけどね。私死んでますし!」


 二人で会話をしながら歩みを進めていると、村の少し手前に白い卵のような石像が立っているのが見えて来た。丁度村へと立ち寄る道の分岐点となっていて、右に入ると村へ、左に行くとまた別の地方へ行くという場所だった。


「何か力を感じますよ神様」

「うん。村の守り石だね」

「へぇ、良いですね。私も守ってもらおう」


 ぴょんと跳ねるように文様が刻まれた大きな石へと近づいたゆうは、左右から見回しながら手を出しそうになっていた。


「ゆう、やめといた方がいいよ。村の守り石が守ってくれるのは村人だけだし。そういうのはたいてい、村の厄や病を旅人に擦り付ける権能があるから」

「えぇ!? なんですかそれ」

「村を守るってそういう事だよ」

「な、なんだか釈然としない。生贄にされた時の事を思い出します」

「そういうこと言わないの。ほら」


 おっかなびっくりと守り石から離れた少女の手をとって、少年は早く離れようと村へと足を進めて行った。今回の目的は守り石ではないのだから、と。

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