第2話「呪われたハンマーですよ神様!」

「うおおおお! おっぱい!!!!」


 色々と元気な声が響いていた。場所は村の鍛冶場であり、これからの開拓事業や村の拡張のために鉄製品を打ち直し、修繕するのが主な作業場である。

 今は休業状態なのか火は消えていて、しんと静まり返った作業場に男女二人が入っていた。その二人の先には木製の台に飾られたひとつの金槌がある。


「ああ、待ってくれ違うんだ! そ、そんなつもりじゃ確かにおっぱいは好きだけど」

「最低! 私のことそんな目でしか見てなかったのね!」


 そこではおよそ鍛冶場に似つかわしくないやり取りが繰り広げられていた。丁度この場へと到着したばかりの二人、宗とゆうは目をぱちくり。面を食らって固まっている。

 呪われたハンマーの噂を聞いてやってきた二人は、簡単な聞き込みをしただけで目的の場所へと案内されていた。


 呪われたハンマー。その力は絶大で、願をかけた人間の本性を暴くと言われていた。ただ、事あるごとにその発露が極端で揉め事にしかならないので“呪われた品”としての噂があちこちに広まっている。


 のだが、どうやらこの村では観光扱いなのか、聞き込みをしたら喜んで案内をしてくれた。曰く、相手の本当の気持ちを確かめることが出来るご神体だとか。曰く、若いカップルに大人気。曰く、不倫をした夫を連れてくれば一発解決。


「なんか、聞いてたイメージと違いますね」

「そうだね。噂は噂だし、でも力があるのは確かみたい」

「あ、かみ……、宗ちゃんも感じます?」

「そりゃまぁ」


 喧嘩をしながら出て行く男女を見送って、二人が入口からそっと様子を窺っていると、白木を使った質素でいて細かな装飾が彫られた台の上で、金槌がぼうっと光り始めるのが見て取れた。


「……、またうまくいかなかった。ちくしょうめ」


 ブツブツと、二人には声が聞こえて来た。宗とゆうは顔を見合わせ、中へと入って行く。声の主、金槌はそのことに気づいていないのか、ブツブツと文句を続けていた。


「本当の気持ちを知りたいってー言うからよぉ。オイラその通りやったってのに、何が気に食わねぇんでぇ」

「あのー」

「男と女の気持ちなんて、金槌のオイラにわかるわけねぇだろ全くよぉ」

「あのー」

「ああん?」


 そこで声は止まった。目の前で声をかけていた赤髪の少女、ゆうに気づいたのか金槌は沈黙し、そして叫んだ。


「な、なんだぁてめぇらは!? どどどど、どうやって声を聴いてやがる!?」

「え、いやどうやってって言われましても」

「か、会話してるだと!? オイラの声が聴こえるのかあんた!」

「あ、はい。そりゃもうばっちりと」

「おいおいおいマジかよ。そっちの坊主もか!?」

「うん」

「こ、こいつは驚れぇた!」


 なおも騒ぐ金槌に手をかざし、落ち着いてと諭す少年と少女の姿がそこにはあった。

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