第3話「盗難ですか神様! え? 神様?」
「ははぁ、なるほどな。神さんと幽霊さんね。どーりでオイラの声が聴こえるわけだ」
「うん。君は付喪神みたいだけど、名前はあるの?」
「いんや。特にねぇなぁ」
「あ、待ってください。神様の名づけは適当過ぎるからやめた方がいいですよ。私なんて、幽霊のゆうちゃんですからね」
一通り落ち着いた金槌と二人は雑談へと入っていた。場所は相変わらず鍛冶場であり、金槌には盗難防止用の鎖がついていたからだ。二人はその場に座って金槌と話している。
一応弱い力ではあるが、宗が人払いの結界もどきを展開しているので誰かが入ってくる可能性は低い。
「その割には気に入ってるみてぇじゃねぇか」
「えへへ、わかります?」
「そりゃな。オイラの権能はどうしてこうして、人の感情に関わるもんだからよ」
「あー、なるほど。だから暴露とか言われるんでしょうか」
「ば、暴露だとぉ。オイラ、そんな風に言われてんのか」
少女の不用意な発言で、金槌の威勢はしゅんと急降下だった。その様子に慌てるゆうと、苦笑する宗。助け船を出したのは宗だ。
「君の力は感情のコントロールみたいだね」
「……おうよ。オイラ、金槌のくせに何故かそんな力が出ちまってよ。でも、出ちまったからには人の役に立ちてぇ。道具としての誇りがあらぁ」
「でも、うまくいっていない?」
「そうなんよ。オイラ、火のことはよくわからい。だから、人の感情を燃え上がらせるのは得意でな。最初の頃ぁ、やってくる人間みんなの良い部分を引き出そうって躍起になってたもんよ」
しんみりと遠い過去に想いを馳せ始めた金槌を前に、宗はうんうんと頷く。ゆうの方はどうしたものかと思案顔である。
「決めた。君の名前は海だ」
「へ?」
「ど、どうして海が出て来たんですか神様」
「君は火だ。大海を知らない。燃え盛る勢いだけで人の心は癒せない。君の原始は燃え上がらせるところにはないだろう? そういう権能が発露したということは、発端は違う。そのことを考えよう。だから、君は今日から海」
自信満々で宣言した宗と、唖然として宗を見るゆう。そして、二人を交互に確認して、己に問いかける金槌は、静かに呟いた。
「海、海か。ったく、金槌に海たぁけったいな名前だぜ」
「気に入った?」
「はははは。坊主、いや宗さん。あんたからの贈り物受け取ろう。オイラに足りないものが何か、あんたには見えるのか。それがあんたの権能か?」
「さて、僕の権能は大昔に喪失したからそんな特別なものはないよ」
「権能を喪失? んなこともあるのか……」
「はい。神様の権能は私が頂きました。いえい」
赤毛の少女が得意気にピースを作っていたが、言われた金槌、海からしてみればよくわからない発言だった。その疑問を海が出す前に、宗は立ち上がってにっこりと微笑みかける。
「さ、行こう。ゆう、霊体化して鍵とってきて」
「え? どういうことですか神様」
「海を連れ出すよ」
「……ああん? どういうこった」
「いいから」
「ちょっと待ってください神様。私に泥棒になれと!?」
「僕らは人間じゃないよ。縛り付けられた同胞に必要なことくらいするさ」
「えー、人の世に生きるなら人のルールを守らないといけないってこの間は言ってたのに!」
「それとこれとは話が別です」
海の前で、ぶつぶつ言いながらもゆうは霊体化し鍵を探しに消えて行った。半透明になった女の子が壁へと消えて行くのはとても不思議な光景である。
そこで初めて、海は彼女が幽霊ということを見せつけられていた。幽霊と言いつつも実体化しそこに在ったため、半信半疑だったのだ。
「……何する気でぇ。オイラ、別に今の状況に不満はねぇぜ?」
「まぁまぁ良いから」
「そういえば、オイラあんたらの目的も聞いてなかったじゃねぇか」
「すぐに、わかるよ」
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