第7話「吸血鬼の本拠地ですよ、神様!」
そこは城というには小規模の、精々砦と言った方がしっくりする石造りの廃城だった。
真ん中にある鍛冶や訓練などの雑務をしていただろう広場を中心に、それを囲う壁が一回り。そして壁の奥部分だけ二階建ての建造物となっているという、小規模の街道監視程度のものだった。
道すがらアオから人間たちが捨てた古いものだと聞かされていたが、広場に残る残骸や所々見える壁の崩れ以外は整備されて綺麗になっている。二人が好き勝手改築しているのかもしれない。
「さぁ座って頂戴?」
「はぁ……」
アオに案内されたのは建造物二階部分と、城壁が連なる部分だった。
広場から直接あがる階段と、建造物二階の出入り口が繋がるためか、ちょっとしたテラスのようにスペースがあって、木製白塗りのテーブルとイスが置かれている。
ゆうと宗はすすめられるまま並んでアオの向かい側へと座った。
ゆうは楽し気に目を細めるアオを見て、結界を張った張本人たちの本拠地に何の警戒もなく来てしまったという事実に今更ながら気が付く。だ、大丈夫なんでしょうか。
「久しぶりのお客様ですもの。おもてなしは何が良いかしら」
「あ、いえお構いなく。私幽霊ですし」
「あら、幽霊ならお供え物? それにしても幽霊なのに実体があるのねあなた」
「はい。神様のおかげで!」
「へぇ?」
余計なんだかアヤシイ目線になったアオが宗をじっくりねっとりと見まわしていた。やはり、このアオとかいう吸血鬼は危険なのでは!?
「それで、お客様にこういうのも何なのだけれど。助けてあげたお礼は何をくれるのかしら? 私としては、その子の……」
「血はダメです!」
「僕としても血はやめておいた方が良いと思う」
「あら残念」
アオの発言に声を荒げたゆうだったが、宗もやんわりと断っていた。ゆう的にはそのことの方に驚きである。何かと動じないというかブレない神様のことだから、軽く良いよと承諾しそうな予感があったのだ。
「アオちゃんは、ここに住んでどのくらいになるの?」
「アオ、ちゃん? まぁ良いけれど。そんなに長い時は居ないわね。数年かしら? 覚えてないわ」
「ここ、もともと人が住んでいたんじゃない?」
「あら、どうしてそう思うの?」
「だって、血の臭いがするから」
「あら。ふふふ。そうね、居たわね。そんな人たちも」
アオは楽しそうに笑っている。ゆうは目を丸くして、隣の宗と目の前のアオを交互に見てしまった。な、なんてところに突っ込むんですか神様! そして吸血鬼やっぱり怖い!
「安心して幽霊さん。誰も殺してなんていないから」
「アオさんは吸血鬼、なんですよね? やっぱり血が欲しくてここを?」
「そう、だと言いたいけれど。そうでもないのよ」
「拒絶する結界でもないし、迷い込んだ相手を食べているわけでもない。何か事情があるんだね」
「ふふ。せっかちは嫌いなのだけれど、先に求めてしまったのはこちらだものね。ただ、説明するのは良いとして、二人の問題だから。ミカを待ってからでいいかしら?」
ゆうと宗が頷くのを見て、アオは手をかざして真っ白なカップをテーブルの上に呼び出した。その数は四つ。
「待っている間お茶にでもしましょうか。きちんと自己紹介もしていなかったことだし、そちらの神様もお供えすれば飲めるのでしょう?」
そう言ってアオは立ち上がると、二階の出入り口へと消えて行った。賢く黙っていた海だったが、その存在は見抜かれていたらしい。
「神様神様、大丈夫なんでしょうか」
「僕の事にも気づいたし、アオちゃんは凄いね。ゆうじゃ勝てないかも」
「ますますピンチじゃないですか!」
「そうだねぇ」
「だから、どうして神様は嬉しそうなんですか!」
一人慌てるゆうに対し、宗はマイペースだった。後ろに置いた荷物から金槌、海を取り外すとテーブルへ置く。位置は丁度二人の間くらいで、カップ三つを配置しなおした。
「オイラの旅路もここまでってことかねぇ」
「不吉なこと言わないでください海さん!」
「どちらにせよ結界を解いてもらわないと出られないし、そもそもお騒がせ吸血鬼に会いに来たんだから、良いんじゃないかな」
「神様って、結構図太いですよね……。私はか弱い乙女幽霊なので、そんな余裕ないですよ」
二人とひとつが騒いでいる間に、アオはティーポットを載せたトレイを浮かせながら戻って来た。結局中から運んでくるなら、魔法でカップを出した意味とは。デモンストレーションだったのだろうか。
どうして力がある存在ってこうも余裕があるのだろう、とゆうは一人溜息をつくのであった。
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