第14話「完全論破ですよ神様ー!!」
アオの尽力により宗一行はどうにか目的地である“呪われた人形“がある場所へと辿り着いていた。
そこは何十年も前に捨てられた街であり、全体が半分砂に埋もれているような状態となっている。石膏で造られたかのように白い、土造りの家々が、いくつも砂の中から顔を出していた。
宗たちはその手前、砂丘の上へと集まって廃墟の様子を見ている。呪いの人形がどういう相手なのかわからなかったので一応伏せて身を隠しての行動だ。
「生死を司る危険な人形、ここで間違いはないみたいだけど」
「人っこ一人いねぇなぁこりゃ」
「人を救うという私たちの目的からすれば、誰も居ないとなると話にならないのではなくて?」
「神様ー! アオさーん、やっぱり誰も居ませんよー。人形の位置もわかりませんし、もう降りても良いですかー?」
「うん。ありがとう、ゆう」
ゆうの調査でわかった噂によれば、呪われた人形は“生と死を司る”とされていた。それはうまくコントロール出来れば巨万の富を生み出すものではあったが、以前所有していた有力者がコントロールを誤ったらしく死去。それにより暴走した人形が周辺に死を振り撒き、街一つが死の都になったという話だった。
「それだけ危険な呪いなら、やっぱり僕たちくらいしか対処できないんじゃないかな」
「えーでもそれってタダ働きっていうんじゃねーのー?」
ミカが呑気に言っているが、それにはアオも同感だった。人を救いに来たのに、肝心の救うべき相手が居ないのではただの無駄骨である。そう思っていたのだが、宗はゆっくりと首を振った。
「二人とも、そういう考えじゃ何時までも呪いは解けないと思うけど。目先の利益だけ求めて動くなら、それは傭兵や契約と変わらないよ?」
「そうですよお二人とも! 善行はただ成すのものです」
「うんまぁ、ゆうの言う事は置いておいても。ここでの問題を片付けてしまえば、今後ここで暮らすかもしれない多くの人や、それによって生まれる幸せを広げることができるし。その呪いによって死を迎えた人々の心や、縁者の想いも報われるかもしれない」
「ゆうはお気楽って感じだけど、宗って割と計算高いよなー」
「お、お気楽? 私がですか!?」
繋がりや人々の営み、想いを含んでの言葉もミカからすれば計算高いという見方なのだから、これはまだまだ時間はかかるだろうな、と宗は思ってしまう。きっと吸血鬼の王はこういう部分を矯正したかったのだろう。
「呪いも今は沈静化してるみたいだし。ちょっと近づいてみようか」
「待ちなさい宗。生と死を司るというくらいだから、無策に近寄るのは危険じゃないかしら……?」
「大丈夫。僕とゆうは死なないから、二人と海はここで待っててね」
「……あなたたち、そうやって私の結界に引っかかったじゃない」
アオが宗から海を受け取りつつ反論していた。笑って誤魔化しながら手を放そうとした宗の手を捕まえて、アオは続ける。
「そのバックパックに何か使えそうなものはないのかしら」
「うーん、どうだろう」
宗が背負っていたバックパックには、これまでゆうとの二人旅で回収してきた呪いの品々が入っている、というのがアオの追及により判明していた。正確には封印し切れなかったからこそ、持ち運ばざるを得なくなったものたちである。
「強力だから中を開けて見ていくわけにもいかないし、それに……」
「それに……?」
「もう何を仕舞ったか覚えてないんだよね」
「ああ、やっぱり」
アオは盛大に溜息を吐いていた。一緒に旅をしてきて痛感したのだ。宗という神様は動じないのではなく、色々と無頓着なのだと。
「あなたのその余裕と超然的な態度は存在の強さに自信があるんでしょうけれど。何事も例外があるという事を忘れないで欲しいわね。今は、私たちも居るのだから。蔑ろにしてもらっては困るもの」
「……ごめん。確かに軽率だったかも」
「そんなわけだから、ゆうを行かせましょう。一人で」
「はぇ!?」
何だか真面目な話をしているなー程度にしか話を聞いていなかったゆうは急に話を振られて変な声をあげた。ゆうにはどういう流れかはよくわからなかったが、一人で行けということらしい。
「どういうことですかアオさん!」
「宗と同じくらい強い存在で、かつ飛び回る機動力があり、壁も通過して動きまわることが出来るだなんて、最適じゃないかしら……?」
「だとしてもこの前みたいに結界に捉えられたら無理ですよ!」
「それは全員に言えることだわ」
「万が一があった時のためにも二人居た方が!」
「万が一結界のような無効化する何かがあった場合、なるべくその外に別動隊が居た方が良いでしょう? それに、いくら神様だからって人の子と同程度の運動力しかない宗を危険な場所に連れて行くというの?」
「むむむむ……!」
完全論破である。飛び回り、身振り手振りでアピールしていたゆうも、アオの正論の前では無力な幽霊でしかなかった。宗とゆうは繋がりがあるため、何かあれば伝わるというおまけ付きである。
宗に視線で助けを求めても取り合ってくれないので、ゆうは何だか二重にショックなのであった。
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