第15話「生と死を司る人形です神様……!」

 ゆうが噂の人形を発見するまでに30分とかからなかった。もともと有力者が所有していて暴走したという話だったので、大きな家を中心に壁を通過し探して行ったのだ。思ったよりあっさりと見つかり、ゆうとしては拍子抜けである。


 街の西側にあった大きな建物の地下で、一抱えほどの大きさの人形が鎮座していた。壁が崩れたのか半分ほどが砂に埋まった一室の奥にあったそれは、まるで祭壇のような場所に供えられている。


 黒髪のおかっぱに、赤を基調として鳥をあしらった紋様の民族衣装を着た少女の人形は愛らしく、噂に聞くほど恐ろしい印象は受けない。ゆうは、もう呪いの力は失われたのではないか、と考えて――つい近づいてしまった。


 その途端、人形の首が動く。近づいたゆうは幽体化していたが、しっかりと見えているのか、一瞬で人形はゆうへと首を向けていた。

 一瞬悲鳴が漏れてしまうゆうだったが、人形はそれ以外に動きをみせない。ただじっとガラス玉のように透き通った瞳で、見つめられている。


「えっと、どうもこんにちは……?」


 ゆうが話しかけてみるも、人形は動かない。ただ、その周囲のものがカタカタと揺れながら動き始めていた。

 ゆうは反応のない人形に敵意はないのかもしれない、と少しだけ距離を縮めていて、その動き出したものに気付くのが遅れてしまう。


 突き出て来たのは真っ白な手だった。ゆうの真横、砂の山から。いつの間にか顔を出していたそいつが、真っ白に肉の削げ落ちた骨だけの手でゆうを捕まえようとしていたのだ。ゆうは驚いて後ろへと飛ぶように、いや文字通り飛んで下がり、その手を回避する。


 物理接触は今のゆうに効かないはずなのだが、動き出した骨にそれが適用するのかはわからない。という冷静な判断ではなく、単純に吃驚しての行動だった。

 そしてそれは正解だった。次々と砂から這い出てくる骸骨の群れに、ゆうは悲鳴にならない悲鳴をあげ、思わず呼び出した大剣を一瞬で振り回す。


 大剣はぐるりと一回転し、立ち上がりかけていた何体もの骸骨たちを弾き飛ばした。ゆうは、その結果に安心しかけ、ふと気づく。今振り回した剣が、うっかり物理接触ができない状態の大剣だということに。

 それで骸骨たちを弾き飛ばせたということは、同時に骸骨たちが幽体のゆうを掴むことが出来るということを示していた。


「あ、あのー? もしかしてお人形さんのお仲間でしょうか? ええっと、生と死を司るってそういうこと、ですか? もしもーし」


 ゆうの引きつった笑みでのコミュニケーションに返してくれる存在はいなかった。

 ゆらゆらと不気味に揺れながら立ち上がって行く骸骨たちはついに10体を越え、室内に所せましと並んで、それから一斉にゆうへと首を向けた。


 ゆうは、逃げた。生理的恐怖からももちろんあったが、同時に骸骨たちから向けられた敵意を幽体の身で感じ取ったのだ。あれは、まずい。

 案の定壁をすり抜けて地上へと脱出したゆうを、全力疾走の骸骨たちが追ってくる。ちらりと後ろを確認してしまったゆうは、たまらずに悲鳴をあげて空へと逃げあがった。


「ひぃぃぃ!! 神様ー! 助けてくださーい!!」


 そして上空から涙ながらに助けを求め、先ほどまで宗たちが居た方角に目を向けた。きっと神様たちは助けに来てくれると、そう思っていたゆうは言葉を失った。


 目を向けた先、砂丘には地面を埋め尽くさんばかりの数の、真っ白な骸骨が群がっていたのだ。自分は飛ぶことが出来るから何とかなったが、あの数を前に宗や皆は?


「うそ、ですよね……、神様!?」


 ゆうは全速力で砂丘へと向かう。しっかり者のアオがついていながら、皆があの大群に呑み込まれるなんてことはないと思いたかった。

 それでも、あんな大群が砂から出てくるなんて予想できるとも思えない。最悪の事態は見たくなかった。どうか、全員無事で居て欲しい。

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