第7話閑話* 夢と平穏の境目
田中明人は、武が同性愛者であるかもということを知っていた。
修学旅行の時にクラスの全員で温泉に入るとき、武は一人もうしわけそうな顔をして、裸の他の男子から顔をそらしていたからだ。
明人もバイセクシャルで集団の温泉で戸惑っていたから、すぐに武の様子で自分の同類だと気付く。
明人はなんだか優越感を覚える。自分は女も好きになれるのだ。一生男が好きということで、差別されることはない。安心して暮らしていけるのだと。
明人は成績もいいし、クラスでもリーダーシップをとっている。だが、なんでも心の内を話せる友人はいない。
武には、梅子と黒という親友がいつでもついているのが見えた。
それを見ていると、 明人はいらいらする。
だからなのか 明人は恥ずかしそうな武の前で言ってしまった。
「お前、ホモだろう」と、
どうして自分もバイセクシャルだということがばれるかも知れない危険なことを言ってしまったのか、明人自身にも分からない。
そう言ったら武はにっこり笑っていった。
「それならいつでもお前と寝てやるよ」
「はぁ!?」
あまりの武の言葉に、 明人は呆気にとられる。
それからしばらくして、武は学校に来なくなった。 明人はほっと、した。これで 武の裸の妄想やもんもんとしないでよくなった。
自分はまともに平凡な人生を送れるんだ。その幸せをかみしめよう。そう思った。しかし武は何故かまた 明人の前に訪れる。そして武に殴られる。
そんなことはどうでもいい。
明人には明日野球の試合がある。
晩御飯を作っている明人の母親は、明人の方を見て言う。
「野球なんて早く辞めて、勉強しなさいよ」
こんなにも明人はまともでいようと頑張っているのに。
夜中学校に忍び込んだ。田中は持ってきたバッドで、学校の窓を壊そうと考える。
意味不明の衝動。
そうすれば、野球をやめられる。
「せーの!!」
田中は振りかぶった時、誰かの笑い声が聞こえた。田中は慌てて背後を振り返る。
そこには笑っている武とたくさんのウサギがいた。
「お、お前」
明人は愕然とする。どうしてこんな夜の学校に一番会いたくない武がいるのか?
「お前のこと俺、大嫌いなんだ」
にっこり笑って武があっけらかんと、そういう。
「俺だってお前のことなんか、大嫌いだ!このホモ野郎!!」
明人の頭の中が怒りで、真っ赤に染まる。
しかし武は、明人の怒りに気付かないのか、平然とした様子で、首を傾げる。
「何で怒っているんだ?…..だってお前だって、ホモだろう?」
武のその言葉に、明人は時が止まったような気がした。
「な、俺、俺は、ホモとは違う。平凡な生活で、そんな、幸せな」
いつのまにか明人は泣いていた。
「俺さ、お前のこと大嫌いだから、お前とは寝てやらない」
そう笑顔で武はいうと、まるで一瞬でそこから消えた。
そう 明人はこのままでいいのだ。このままでいたいのだ。明人は顔を覆って泣きつづけると、そのまま学校を後にした。
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