第9話


「嘘つき」

梅子は武にそう言い放つ。

「嫌いなら嫌いっていいなよ、俺のこと」

悲しそうな顔の梅子が言う。


「俺がお前のこと嫌いなわけがないだろう。ただ友人だとしか思えないだけで。俺がゲイだってしっているだろう?」

 髪の長い美しい顔の梅子。名前は古典的な感じがするが、梅子は今風の美人だ。武が男だったら、完全に惚れていたと思う。


「なら、黒のことは好きなの?」

 梅子が不安そうな顔になる。


 確かに黒の性別は男だが……。

 静かに武は首を横に振る。

「黒もお前も友達だ。大切な」

「そう、ならよかった。三人で結婚しよう」

衝撃発言を梅子がする。

「い、いや、それは。そもそもなんで黒と三人で結婚なんだ?」

「いいでしょ。武の子供三人で育てよう!」

にっこり梅子は微笑む。


だが、武が梅子をレイプしたことになっている。そんなことが許されるのか?そもそも武自身は、梅子をレイプをした記憶はないのだが。


「梅子、それ本当に俺の子供なのか?」

いけない質問だとは思いつつ、そう武は梅子に問いかけずにはいられなかった。

「武なんて大嫌い!!」

梅子は武のことを、ひっぱたく。

「ごめん」

梅子は物悲しげな顔で、俯く。


「俺こそごめん」


武の胸は張り裂けそうになる。

梅子も大事な存在だが、武自身、梅子との結婚は考えられない。


 どうしたものか?


梅子が武に抱きつく。

手を伸ばして、武は梅子のことを抱きしめ返す。


武は一人悩み続けた。


「そういえば武の御母さんから、武がいなくなったって電話があったんだけど、どこかいっていたの?」

「御母さんが?」

「うん。クラスの人に電話かけているみたい」

 

 武の母親は一応、武のことを探し続けてくれていたのか。

けれど武の父親のほうはどうなのだろう?

なんだか武は寂しい気持ちになる。


「武、家族とうまくいってないの?」

「大丈夫。梅子のほうも家族とうまくいっている?」

「早く男とお見合いしろって。俺、まだ中学生なのに。男と付き合えば、ビアンが治るって信じているの。馬鹿みたい」

「….そうか。結婚、か」

梅子と偽装でも結婚した方がいいのかと、武は悩む。

「同情で、俺と結婚するなんて、やめてよね」

綺麗な梅子の瞳が、武の瞳を覗き込む。

「ああ」

武は笑って、頷いた。


梅子と別れ、武は一人家への帰り道を歩く。

家へと帰るのは億劫だし、なんだか憂鬱だ。溜息をついて、武は石垣の上に腰かける。

「よし!」

武は決心し、家への帰り道をあるいたのに、武はいつの間にか、雪山を一人歩いていた。


「どこだ!?ここーっ!!!!!!!」

武は凍えるような寒さの中で、叫んだ。

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