第6話
この世界はどうぶつのあたまをしたにんげんが多いのか?武は恐怖をおぼえる。
武の目の前にいる人間?は、体は人間の少女なのに、完全に頭は赤い目のウサギだ。ウサギの顔はリアルすぎて、仮面やキグルミのように見えない。
「おはよう。もうすぐ学校の時間だよ。あなたは行かないの?」
赤い目のウサギの少女は、武に問いかけてくる。
「お前、いや、君は人間なのか?」
「人間だよ。元、ね」
「元?」
「うーん。自分でも過去のことは忘れちゃった。私が覚えているのは学校に行かなくちゃということだけなの。気が付いたらこんな顔で、この学校にいたの」
「もともと君は兎の顔じゃないのか?」
「当たり前でしょ。人間の顔が、ウサギのわけないじゃない」
「君の顔は今ウサギのわけだが」
至極まっとうなつっこみを、武はする。ウサギ少女は、首を傾げる。
「いいなぁ、あなたの顔、人間なんだもの」
「当たり前だろう」
今さらながらウサギの顔をした少女の出現に、武は怖くなってしまう。
夜の学校のチャイムが、何故か鳴り響く。
「さぁ、あなたも学校に行かなくちゃ」
ウサギの顔の少女が、武の腕を掴んでくる。武は兎の顔の少女の腕を、振り払う。
「行くわけないだろう」
どこに連れて行かれるかわからないのに、ウサギの頭の化け物の後を、人間の武がついて行くわけがない。
「いけないんだ。さぼり?」
「さぼりも何も、行くわけないだろう」
恐怖で弱く見られないように、武は兎の少女のことを睨み付ける。
「なら、私もさぼるから。でもそうしたら、先生に怒られちゃう。だから私の代わりに、あなたが学校に行ってね」
ウサギの少女はわけわからないこと言うと、武の体の上を通り抜けていく。武の体が存在しないように、すり抜けていった。
「はぁ?」
走り去るウサギの少女の後ろ姿が見える。なんだか嫌な予感を覚えて、武は自らの体を見下ろす。なんの変哲もない武の自分の体。だが、あのウサギの少女は、武の体の上を通り抜けて言ったような?
「何しているの?もう授業始まるよ!」
ウサギの頭をした少年がやってきて、武の横を通り過ぎていく。
武の横を通り過ぎて行った少年の声の持ち主は、もふもふのウサギの頭に、体つきもウサギのまんまだが、人間のように立って歩いている。あのウサギ頭の少女で、体が人間だったのとは違う、姿はウサギのまんまだ。
呆然としている武の元に、またもや立って歩くウサギがやってくる。
「珍しい!人間の転校生?」
ふくふく鼻を鳴らしながら、白い顔のウサギの少年は、不思議そうに武の体を見る。
「お、お前らウサギなのか?」
恐怖で固まりながら武は、ウサギの子供の集団にきいてみる。
ウサギの子供の集団は、元気よく頷く。
『うん!!』
そう皆声をそろえて言った。
「何でウサギが人間の言葉話すんだ?」
一応武はそうウサギの子供たちに問いかけてみる。
「学校で習ってるから」
そう子ウサギはこたえる。
学校で習っているウサギは二本脚で歩けるし、日本語を話せるらしい。これも全部夢なのだと、武は自分を納得させることにした。
「あなた何やっているの?授業始まるわよ」
もさもさしているスーツを着ている大人のウサギが、武の手に触れた。
「先生、この人間、転校生?」
ランドセル背負った子供のウサギが、大人のウサギにきく。大人ウサギの先生は頷いた。
「そうみたい」
「わああああ」
子ウサギたちが、歓声をあげる。
「もう授業がはじまるわよ!みんな教室に入りなさい!!」
「はぁーい」
元気よく手をあげて、子ウサギたちは走って教室に入って行く。武は教室に入らず、もう現実の家に帰りたかった。
「早くしなさい!あなたも転校生とはいえ、遅刻は許しませんよ」
ウサギの先生がそう断言する。仕方なく、武は頷くのだった。
「えー、今日は人間の転校生がきました。名前は武君だそうです。皆仲良くしてあげてね」
ウサギの先生は黒板の前に立つ、武のことをそう自己紹介する。
「はぁーい」
一斉に生徒らしき子ウサギたちが、返事をしてくれる。
「空いている席は、どこかしら?空君の隣が空いてるわね。あそこに座って、武君」
女性らしいうさぎ先生の指さす方に、武は座るらしい。
「は、はい」
武は恐る恐る、茶色い黒い瞳の子ウサギの隣に座った。子ウサギは武の方をみた。
「よろしく!武」
「あ、ああ」
「一時間目は数学です!武君は隣の席の子に、教科書見せてもらってね」
数学の授業が始まって、子ウサギの女の子の声が響く。
「うあああああ、かゆいぃいい」
武の左側席の子ウサギが、頭を抱えていいる。
頭をうまくかけないらしい黄土色の毛皮の子ウサギの頭を、武はかいてやった。
「僕も!」「私もかいてっ」「かゆぃいいい」
子ウサギが武のもとに殺到してくる。
「もう!授業中なのに」
ウサギ先生はプンプン怒っている。
「でも先生かゆいんだもん。人間の手気持ちいいよ」
白いウサギの女の子が、武に頭をかいてもらいながら言う。そりゃお前ら、蚤やらダニやらがいるからなと、武は心の中で思う。
「そうねぇ、人間の手は五本もあって、器用ですもの。みんな、ブラッシングや、撫でてもらいもらいましょう!」
ウサギ先生は目をキラキラさせて断言する。
おい、授業はどうした?武は遠い目で、そんなことをおもう。
「先生、空の奴がうんこもらしました!!」
白い男の子のウサギが、手をあげてそんなこと言う。武の席の隣のウサギ黄土色とこげ茶の毛並の少年らしき子ウサギが泣きそうな顔で、俯いている。
武は子ウサギのブラッシングの手を止めて、地面に落ちている丸いうんこを、教壇にあるティッシュで丸めて、捨てた。
空という名前のウサギは、武に抱きついてくる。
「こん太君だって、おもらしするんだから、そんなこと言わないの!」
うんこ宣言した白い少年ウサギは、こん太というらしい。子ウサギこん太は、ウサギ先生に怒られている。
「やっぱ、人間ていいね」
「うん」
子ウサギのそんな声が聞こえてくる。
武は飼育係になったような気分だった。
休み時間、武のもとへ子ウサギが全員集合した。
黄土色の毛並のウサギが武にいう。
「僕の名前は空だよ」
「私、星。空の妹」
白い毛並のウサギが言う。
「私、太陽」
白い毛並のもう一匹のウサギが言う。
「俺、こん太。人間よろしくな」
「俺は、武。よろしくな」
武はなんだか意味もなく、消耗してた。
その時、教室の窓が割れるすさまじい音が、響く。
「きゃ!!」
子ウサギのみんなが武に抱きつき、震える。
「また人間がいたずらしにきたんだ」
暗い声で空ウサギが言う。
「いたずら?」
武が聞き返すと、空ウサギは深刻な様子で頷く。
「僕ら小学校にいたんだけれど、学校の窓を割る人間がいて、怖くて。臨時でこの中学校で授業を受けることになったんだ」
「警察にいったほうがいいぞ」
「人間には僕らが話すことは内緒なんだ」
とにかく怯えている子ウサギたちが可哀想なので、武は犯人を警察に突き出してやることにした。
まだ犯人は学校の窓を割っている。武は犯人を確かめるために、音をたてないように現場に向かう。
犯人は野球のバッドで学校の窓を割っている。犯人は年若い少年だ。少年はマスクで顔を隠しているが、それが田中明人だということに、武はすぐに気付いた。
「お前、学校の窓割るのやめろよな」
はっきりウサギたちのために、武は田中に言ってやった。
すると、何故か田中は泣きそうな顔をして、「お前のことなんか大嫌いだー!!」とか叫んで逃げ出していく。
田中の性格の場合、武のことを嘘つきと呼んで罵るか、誤魔かすかするだろうと思っていたのだが、訳の分からない。
「ありがとう!!」
子ウサギたちが泣いて喜んでいるので、まぁ、武はいいかなと、思う。武は欠伸をする。眠気が我慢できなくなって、武はその場で倒れた。
「聞きましたか?小学校のウサギ小屋にいたずらしようとした犯人の男が、先日逮捕されたようですよ。なんでも犯人の男は、女の幽霊を見たとかで、ひどくおびえているようだ」
武が目を覚ますと、目の前には大きな鴉の顔があった。どうやら、武は鴉の男にひざまくらをされていたらしい。慌てて武は起き上がる。
「田中が学校の窓を割っていたんだよな?田中が警察に捕まったのか?」
武の言葉に、鴉男は首を傾げる。
「いえ、犯人は成人男性だそうですよ。ウサギを何匹か殺していたそうだ。人間の衝動は恐ろしい」
子ウサギたちの様子を思い出して、武は胸を痛める。
「田中が犯人じゃないのか?やはり全部夢の出来事なのか?」
おかしい。武が見た犯人は、田中だというのに…..。
「あなたがそう信じるならば、夢ではないのかな?」
「お前は何なんだ?」
「私は見たまんま鴉だよ」
「鴉」
「私の正体は、あなたが夢から覚めた時にわかるはずだ」
にっこり鴉は笑う。
「分かるはずないだろう」
「さぁ?よい、目覚めを」
鴉が丁寧にお辞儀をすると、幻のように消えてしまう。武は怖くなって、その場から走り出した。
武はやっと自分の気持ちに気付いた。
田中明人のことが嫌いだったことに。
そしていつのまにか武の目の前には、髪の長い幼馴染の少女の梅子がいた。梅子は武に言う。
「嘘つき」と、―。
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