第2話

武の父親はいい男だ。寡黙すぎるきらいがあるが…….。

武は仕事一筋の父親のことを尊敬している。けれど父親を傷つけ、あまつさえ武自身が同性愛だと知ったら、父親は武のことを捨てるだろう。そうなったら、武自身悲しいだろうなと、そう思った。


武はベッドの上に横たわったまま、また溜息をつく。

武は引きこもっている間、ずっと溜息をついていた。次の瞬間、武はまた眠気に襲われる。瞼が自然と降りてくる。


武はそのまま、死んでしまいたいそう思う。


 「やあ、こんにちは」

 にっこり武の前に、鳥の顔をした黒い帽子とスーツの男が現れる。

武はいつもの夢かと、ため息をつく。

「鳥の顔をした人間か。妙な夢だな。現実の俺は今頃、また誰かに暴力振るっているのかな?」

「おやおや、お困りのようで。私だったら、なんでも君の悩みを解決してあげるよ」

その鳥の頭をしている男は、まるで人間のように表情を変える。その表情はまるで武のことを馬鹿にしているようで、皮肉げだ。

「なら殺してくれ。あんたが」

そっけなく武はそういう。

「何故?この世界なら君の願いなら何でも叶うのに」

「この世界?夢の世界か?」

「ああ、そうだとも。君は恋をしたことがあるかい?」

「ない」

「君を好きな人がこの世界のどこかにいるかもしれないよ。それまで死ぬことはないのではないかな?」

「俺自身が怖いんだ。夢遊病で、誰かを殺してしまいそうなんだ」

「誰を?」

「…….」

 そうだ。俺自身、誰を殺したいのだろう?父親、母親、学校、友人、誰も不満なんて、抱いたことはないのに。


「君自身の本当の願いは?」

黒い鴉の大きな顔が、武の顔に近づいてきた。鴉の漆黒の瞳が、武の顔を覗き見る。

「願いなんて、ない」

「だったら君の本当の願いを見つけるんだ。そうしたら、私が、君を殺してあげよう」

そう鴉は囁く。

だから、武は頷いた。


武は夢から覚めると、何故か外の公園に裸足でたっていた。

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