第15話

武は結構な重症患者で、生死の彷徨っていたらしい。武を担当してくださっていた医者の先生からそうきいた。

冬山から交通事故。とことん武はついていない。雪山で出会った里仲の住所の紙も見つからない。

梅子との結婚のことを、武は考える。

 梅子には恋することはできないが、幸せな家族を築けそうな気がしている。


「武!」

病室に武の母親が入ってくる。

「母さん」

「心配したんだから。どこに行っていたの?」

武の母親の真理子に、武は抱きしめられる。

「ごめん」


 真理子の後ろ側に、父親の阿久津が立っている。武は阿久津が気になる。阿久津は無表情で武のことを見ているのが、怖かった。


沈黙の中、阿久津が口を開いて言った。

「お前なんて、おれのこどもじゃない」

その武への阿久津の言葉は、静かな病室に響く。

「あなた?!」

阿久津は病室を出て行く。

「お父さんもあなたの心配しているの。だからあんなこと言うの」

慌てて真理子はそう弁明するが、武は父親が、武のことに興味がないのを知っている。

武は本当に帰る場所は家なのだろうか?そう疑問に思う。

帰りたい場所。

帰る場所はどこにもないのかもと、武は悲しく思った。


「人の悪意とは恐ろしいものですね」

 武の両親が帰った後、鴉男が現れて武に言い放つ。


「お前、魔物か何かだろう?さっさと俺のこと殺せよ」

もう武はどうでもよくなっていた。

すると鴉男はからから笑う。

「それが本当に君の願いなのか?」

「そうだよ。もう全部にうんざりなんだ」

「では死ねばいい」

そう鴉男が言い放つ。


次の瞬間、武は病室にいたのに、いつのまにか中学校の屋上にいた。

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