第16話


次の瞬間、武は病室にいたのに、いつのまにか中学校の屋上にいた。もう夜遅くなのに、屋上の鍵が開いていることに、武は不思議におもう。

この屋上から飛び降りれば、武は死ねる。だが足がすくんで、武は動けない。


「死にたいんだろう?早く死ね」

悪意に満ちた言葉。

武の背後には、幼馴染の黒が立っていた。


「黒?」

何故ここに?それに、武の親友である黒がそんなこというなんて、武には信じられなかった。

「目が覚めたようだな」

黒がへらへら笑う。

「お前が何故ここに?」

「お前が死にたいって言ったから、見送りに」

「俺はそんなこと言っていない!!」

「殺されたいとかお前は言っていたな」

「俺が寝ぼけて言っていたのか?」

「ああ。そうだ」

「だからって死ぬなんて言うなよ!!」

「だって、俺、お前のこと大嫌いだもん」

あっさり黒は、武にそう言い放つ。

「そんな…….」

「意味もなく嫌われる。お前にはその意味は分からないだろうな」

「死にたいのだろう?だったら手伝ってやる」

黒は武の体を突き飛ばした。

武の体は、空中へと落ちていく。

「うわあああああああああああああああああああああああ」

悲鳴を上げながら、きつく武は目を閉じた。


「だいじょうぶかな?」

武が目を開くと、そこには鴉男の顔があった。武は空中で、鴉男に抱え上げられていた。

「俺、死んだのか?」

そう武は、鴉男に聞く。

地面に降り立った鴉男は、からから笑う。

「大丈夫。君は死んではいないよ。私が助けたからね」

「お前はなんなんだ?ここは夢なのか?」

 武を見つめているリアルな鴉の顔が形を変えて、梅子の顔になった。

「お前!?梅子なのか?」

「いいや」

梅子の顔が、次に黒の顔になる。

「お前?」

「私は梅子でもあり、黒でもある。さっさと君が夢から覚めないと、大切なことも思い出せやしない」

「俺は」

「君の心はどこにある?」

「心?なんで黒は俺を殺そうとしたんだ?俺と黒は普通に仲が良かったのに」

「まだ君は夢から覚めないみたいだ」

「夢?今も夢なのか?もう何もかもわからない」

頭を抱えて、武は校庭で蹲る。


武の目の前から鴉は消えて、一人武は校庭に残されていた。

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