第20話 閑話* 過去のこと
「はい?」
黒がドアを開けると、そこにはにこにこ微笑む武の姿がある。
黒はにこにこ微笑むと、武の頬に口づけた。
「久しぶり!武!」
黒は武に飛びつく。
にこにこ微笑んで武は、黒の頭を撫でる。
「黒くんは、俺のこと嫌い?」
「だーいすきだよ。でも現実の武は嫌いだな」
「俺は俺だよ」
「いつか殺して、武の自由にしてあげるね」
子供のように目を輝かせる黒に、武は溜息をつく。
「さぁ、部屋に入って。外は寒いだろう。たくさんいいもの用意してあるからね」
武は黒に連れられて、黒の家の中に入って行った。
黒は昔から、武のことは別にどうでもよかった。中学時代は、武のことを気色悪いホモ野郎だと、心の底では軽蔑をしていた。その頃の黒は反抗期で荒れていた。武のことを親友だといいつつ、他の友人には武の悪口を言いふらしていた。
あるとき、誰もいない放課後の教室で、武はにこにこ笑っていった。
「黒は優しいな。大好きだよ」
「男を好きになる趣味はない」
「大好きだよ。よしよし」
黒の頭を子供のように撫でる。
馬鹿にしているのかと、カッとして、黒は、武の頬を殴った。
「黒は凶暴だな」
「触るな」
ところが武は懲りた様子もなく、黒のことを抱きしめた。
「よしよし。黒は猫みたいだな」
「殺すぞ」
鼻を歌を歌いながら、武は黒から離れていく。
しばらくたってから、黒は武に舐められないように、言っておくことにする。
「次に俺の頭を撫でたら、殺すからな」
「はぁ?なんで俺がお前の頭を撫でるんだよ?気色悪いな」
心底嫌そうな武の顔。
黒には武が嘘を言っているようには見えなかった。
時々武は変な感じになる。
武はどんなに嫌がっても黒の頭を撫でて、好きだよと、にこにこ言う。気色悪いと黒がいくら言っても、変わらず武はにこにこ笑って、黒の頭を撫でる。
そのうち好きだよ。猫みたい。などという武に、黒の心はなんだか癒されてしまった。黒はもう一人の武のことを、恋愛感情ではなく大好きになる。
だがそんな幸せな時間は長く続くことはない。
ある日、武は一人の男に傷害事件を起こした。なんとかその時は外聞が悪いということで、示談で終わった。
武が傷害事件を起こした相手こそ、性的虐待をしていた黒の父親の正太郎だった。武は黒を助けてくれたのだった。
その時黒は、武が夢遊病だとしったのだった。
その時から黒は武のため、いや、夢遊病である武のためになんでもしようと、決意した。
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