第21話

友人も家族もすべてなくしてしまった。

帰る場所もない。

帰ったら武は精神科医に通うしかないなと、しみじみ思う。

このまま死んだ方がいいのかな?そんな風に武はおもい、海に向かうことにする。


「逃げるんですか?」

目の前にあの鴉男が、現れる。

この鴉の顔をした男も、全部武狂った精神が見せたものなのだろう。


「もういい。死ぬ。疲れた」

「そうやって逃げるのかな?」

「逃げる?」

「そうやって君は大事なことを人に伝えないで、死の中に逃げている。あなたの気持ちをつたえないと、人は分かってはくれません」

「は?言えばわかるって言うのかよ!そんなこと言ったって、誰もわからないだろう?人の気持ちなんて。分かり合えないんだよ!誰もかれも!!」

「言わなければ、あなたがいなくなってしまう。伝わらないかもしれないけれど、言わなければ始まらないんですよ。

もう夢に逃げないで、人と向き合ってください」

鴉男は武に向かって、手を差し出してきた。

「怖いんだ。俺は同性愛者で、父さんになんて言えない」

「別に軽く文句でもいってやればいい」

「俺は」

「夢の中であなたが、父親に文句を言っても、仕方がないんですよ」

「…….そうだな」

今まで武は本音を押し殺してきた。

授業参観だって、忙しい父親のために、父親に言ったことはない。

「ありがとう、鴉頭。お前は一体何者なんだ?」

「私の正体も、もうすぐわかることでしょう」

そういって鴉男は、綺麗にお辞儀して見せる。

「良くわからんが、またな」

「ええ」


武は意気揚々と走り出した。

お父さん、俺は。

武は全速力で走る。


家の前に差し掛かったところ、武の足を少年が掴んだ。

「おわ!!」

「お兄ちゃん、助けて!魔王を倒さなければならないんだ!!」

そう少年が、叫んだ。

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