第22話
「お前誰だ?迷子なのか?」
武の足もとにいる子供は、まだ幼い。こんな夜遅くに、こんな道端にいるのは危険な年頃の子供だ。
「俺、迷子じゃない。勇者なんだ。悪い魔王を倒さなきゃ、家に帰れないんだい」
「なにかの遊びなのか?」
武は溜息をつく。
早く家に帰って武は、父親に自分の正直な気持ちを言ってやりたいのだが。こんな幼い子供を放っても置けない。
仕方がない。
「名前は?俺は武。君の名前は?」
「俺?俺は雄大。勇者なんだ」
「ほお。勇者なのか?」
「うん。魔王を倒すのが、目標なんだ」
「魔王って実在すんだな」
「…….魔王はいる。怖いんだ。だけど、俺は勇者だから負けるわけにはいかないんだ」
「とにかく、もう遅いから、家まで送って行く」
そう武が言うと、雄大は俯いた。むすっと、いう感じの、雄大の様子に、武は不思議におもう。
「どうした?」
「兄ちゃん、魔王倒すの手伝ってくれる?」
「ああ、手伝ってやる」
微笑んで言うと、武は雄大の手をつないで、歩き出した。
「家はどこ?」
「まっすぐ」
雄大が言うまま、道を進む。
しばらく雄大と武は歩くと、家の前にたどり着く。そこの家の前に、ゴリラが一頭立っていた。
「ゴリラ!?」
住宅地に立つゴリラに、武は衝撃を受ける。
「あれが魔王」
「いや、あれはどう見ても、動物園から逃げ出したゴリラだろう!!」
「これで戦って」
雄大は鉄でできた剣を、武に差し出してきた。
「いや、動物虐待だろう?」
「雄大死ね。お前さえいなければ」
ゴリラが話し出す。
「ゴリラが話した?」
呆然とする武。隣にいる雄大を見ると、雄大は俯いて泣きそうな顔をしている。だから、武は雄大の手から剣をもぎ取ると、ゴリラを追い払うように剣を振り回して、ゴリラの頭を叩いてやった。
すると、ゴリラは消えていなくなる。
「雄大、ゴリラ倒してやったぞ」
武は雄大の方を向いて、勝利宣言をしてやる。
雄大はにっこり微笑むと、「ありがとう」という言葉を残して、姿を跡形もなく消した。
「あんた何してんの?」
女の人の金切り声で、武は目を覚ました。またいつのまにか武は寝てしまっていたらしい。武が目を覚ますと、見知らぬ家の中だった。
「あのここは?」
武は女の人に聞いてみる。
「ここは空家だけど、不法侵入になるわよ」
「すいません」
武は頭を下げる。
「あの、雄大って名前の子供知りませんか?」
「さぁ?私はここに住むかどうか見学に来ただから。何か幽霊かなにかみたの?」
「…….いえ」
「一家心中がこの家にあったって、噂よ。まぁ、家賃が安いから住むかどうか迷ってたんだけど、不法侵入者がいるからやめるわ」
そういって女の人は、家から出て行った。
あの雄大という子供は、家に帰れたんだろうか?
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