第13話


「今日は幼馴染の加奈子と未来がくるの。鳥さんはおとなしくしててね」

 確かに梅子が小学生の頃、黒と武は頻繁に梅子の家に行き来していたが。ここは夢でもなく本当の現実世界なのでは?そう思い、武は一人ぞっと、する。

 俺は、鴉ではない。


「いらっしゃい!」

嬉しそうな梅子の声が、部屋に響く。

梅子の部屋に、同級生の少女の加奈子と未来がやってくる。

「梅子ちゃん!お邪魔します」

「お邪魔します!」

愛らしい二人の少女だ。

「チョコレートの材料もってきたよ!」

「何持ってきた?」

「レシピあるよ」

少女三人で、どうやらバレンタインのチョコレートを作るらしい。

「梅子ちゃんは、武君に渡すんだよね?チョコ」

未来が梅子にきく。その言葉に、武の心臓は止まりそうになる。

「……うん」

どこか恥ずかしそうに、梅子は頷く。

 

武は梅子から小学生の時からただの一度もチョコレートをもらったことがない。小学生の時に梅子から、一度だけ何故か武はどら焼きをもらったことがあるが。

あれは梅子から武の告白なのか?


中学一年生の時に武は、自身が同性愛者であることを梅子に伝えた。その時の梅子は平気そうにしていたが。


チョコレート作りは順調に進み、梅子の家から二人の少女は元気そうに去って行く。

一人残された梅子は、鴉の前にチョコレートを差し出した。

「鴉さんに、これ、あげる」

「カー?」

「武は俺のこと友達にしか思ってないから。武から異性として見られていないもんな、俺」

「カー!?」

「好きだよ、武」

大人びた梅子の顔。

これは夢の中だと、武は気づく。


思い出した。

小学生の頃梅子が助けた鴉を、梅子の母親が捨ててしまったと、梅子は泣いていた。

いつのまにか、人間に戻ってた武は手を伸ばして、小学生の梅子を抱きしめた。



「泣くなよ、梅子」

目を覚ました武は、梅子のことを抱きしめた。

「武」

梅子は泣きながら、武の胸に頬を寄せる。

「俺、武が望むなら、男にだってなる」

「いいよ、そんなことしなくても。俺、梅子のことを恋愛対象には思えないけれど、俺は梅子のこと愛している。家族になろう」

 武はもうとっくに気づいていた。

梅子は武の瞳を見つめ、笑顔になる。

「うん!」

武と梅子は抱き合う。

梅子に掴まっていることに。


「武」

気まずそうな黒の顔がある。

「黒」

「おかえり」

そういって黒は笑ってくれた。

武も笑って言う。

「ただいま」

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