第24話言いたいこと

7

武は見知らぬ道を歩きながら、泣きそうになっていた。腹が減った。どうしてこうも家に帰れないのか?


「辛かったら、思い出さなくてもいいよ」

そう言ったのは、誰だったか?

武は家に帰れない。そう武は願ったからだ。

武は一つのことを思い出した。

忘れられる催眠の本のこと。それを梅子と黒と武と三人で仲良く読んでいた。


「あなたはまだ死にたいと思っているのかな?」

鴉男が、武の耳元で囁く。


武の家の前には、梅子と黒が微笑んでいた。

「思い出さないでいいよ」

「俺が殺してやるから」

「武、結婚して」

「武、大好き」

口々に、武に囁く。


「だぁああああああああああああ!!もううるせぇ!!俺は父親に言ってやらなければいけないことがあるんだよ!!消えろ」

武は二人を振り切って、家の中のドアを開けた。


父親は酒を飲んでいた。

「武?」

不思議そうな父親の声。武は睨み付けてった。

「親父は俺のことそんなに邪魔なのか?嫌いならば産まなければよかったのに」

「やっと帰ってきてその言葉なのか?」

「そうだよ!なんでそんなに俺のこと避けるんだよ!!」

「お前が俺に暴力をふるったからだろう!!」

「おれがおやじに?」

 武の脳裏に、父親を殴る映像が浮かぶ。まったく記憶になかった。きっと武が夢遊病のときにしでかしたことだろう。

武は大事な記憶をおもいだしていた。

「それは、親父が、俺のこと信じてくれなかったからだろう?」

「お前は」

「俺は、意味もなく、黒の父親を殴ったわけじゃない。なのに、親父は俺と目も合わせないで、避けた。俺は、俺は、黒が暴力をふるわれそうになったのを、かばっただけなのに」

「黒君の父親が暴力?そんなことお前一言も」

「聞いてもくれもなかったじゃないか。親父は俺の話しも」

それに黒は性的暴力が世間に曝されるのを、恐れていたから、武は父親以外に相談できなかった。


「それ以前も親父は、俺のこと無視した。親父にとって、俺はいらない存在だったんだろう?そうはっきり言えばよかったんだ」

「お、お前の言っていることは分からない」

「そうだろうな」

武は泣きながら笑うことにする。

 結局武と父親は理解できないままで終わった。

けれど、武は大切な記憶を思い出すことができたのだ。それがいいかどうかわからないけれど、やっと武は眠りから目覚めたような気がした。

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