水の棲み処

フロウは人間を食わねば生きてはいけない食人鬼だった。
生きるために人を狩り、食う。
人を憎んでいるわけではない。嫌いなわけではない。
その営みに憧憬すら抱いていた。
できることなら、多くの人のように、家族や友人や恋人と温かく平穏な日々を送ってみたかった。
彼らを食いたくて食うわけではない。
ただ、生きるため——。

サナは食人鬼を狩るために生まれた娘だった。
その肉体に毒を宿し、戦う術を叩き込まれた。
食人鬼に恨みなどない。恐れも蔑みもない。
彼らに捕食される人を救いたいという気持ちすら、なかった。
そもそも、何かを心に感じるということが不得手だった。
彼らを殺したくて殺すわけではない。
それが、ただ一つの存在意義だから——。

奇しくも出会った二人は、静かに、不器用に心を通わせ始める。