Episode.2 The myth of AK

第1話 二十年前

 1997年9月17日、午前6時のことである。

 日本に到達した当時唯一のハリケーン――平成9年台風19号は、北陸地方で温帯気圧に変わった。


 この折、ウラジオストクより伏木港へと向かう大型貨物輸送船の一隻が、ハリケーンの影響を避けるために、通常の航路を離れて避難した。

 船は約六時間の遅延の後に、伏木港へと入港した――だが、この際にちょっとした問題が発生した。


 ロシア側から運んできたコンテナのいくつかが、ハリケーンの影響を受けて日本海へと落下。伏木港沖より五十海里の位置へと沈んだのだ。


 当時、この問題にあたったのは、海上保安庁海洋情報部技術国際課ロシア方面担当渉外官と、ロシアに強いコネクションを持つ与党衆議院議員だった。


 彼らは、日本海に沈んだコンテナのであったことをいいことに、日本海沿岸の詳細な海図を要求するロシア側の渉外官、および、金銭的な補償を求めるコンテナの所有者を黙らせて、その事故を強引に解決した。


 90年代の出来事ということ以外に、特筆することなど別にない。

 よくある政治的なやりとり――その一幕である。


 しかしながら、海底に沈んだそのコンテナをめぐり、二十年後。

 思いもよらない騒動が起こることになるのを、この事故の当事者たちは知らない。


 少なくとも日本側は。


 臭いものには蓋をしろ。

 しかし、むせかえるようなの匂いは、蓋をしたところで漏れ出てくるものなのだ。


「……と、俺は今回の事件をしめくくろうと思うのだが。どうだろうか」


 事件の全容について知らないのに、どうだろうかも何もないか。

 とにかく、まずは、聞いてほしい。


 この俺が巻き込まれた、八月のちょっと早い台風のような事件について。

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