第7話 狂乱する明星の冠

 帰国予定日より、一週間が経った。

 しかし、出発前に文香に頼んだ、製薬会社による新薬の発表を知らせる手紙は、一向にこちらに届く気配がなかった。


 まさか、マイシスターに限って、自分の仕事を忘れている。


 なんてことはないと信じたいんだが。

 いかんせん、あんまりにも遅い。


 流石に異世界生活を一ヶ月も続けると文化の違いが苦痛になってくる。

 看板娘になるほどに馴染んだとは言ってもだ。


 そこに一週間も予定がずれ込めば心中お察しだろう。


 なおかつ、最大の懸案は彼女の父の安否についてだ。

 発表がないということは、何か彼に不測の事態が起きたのではないか。

 娘に思わせるのに、それは十分な不安要素だった。


「あの、本当に大丈夫なんでしょうか?」


「大丈夫って?」


「もしかして、お父さんの身に何かあったんじゃ」


 酒場を閉めてからの夜遅い晩飯時。

 そう言って、俺に寂しげな視線を向ける楓ちゃん。


 ボブカットの髪を揺らし、来た時よりも少しばかりやせたその顔が、不安の色に染まっていた。請負人として、そんなものを見せられてしまえば、申し訳なさを感じないわけがない。


 加えてそこにリーナの視線だ。

 小ばかにするような「なにやってんだよお前」という顔がこちらを向いている。


 針のむしろという奴だ。

 居心地など良い訳がない。

 なまじ、いい方法があるなんて大見得を切って、異世界までボディーガードとしてついてきた手前だ。余計に後ろめたくもなる。


 しかし、それよりなにより。

 ――俺自身に、この現状に対する大きな不満があった。


「楊令伝(水滸伝の続編)読みたぁあああいい!!」


 俺の北方謙三熱が深刻な状態になっていたのだ。

 いわんや、こんなこともあろうかと、大量にストックしていた水滸伝を読みきってしまった俺は、強烈なハードボイルド小説離脱症候群に襲われていた。


 読みたい、北方謙三の小説が今すぐに読みたい。

 ソープに行けと同じトーンで、異世界に行け、と、北方先生の声が聞こえてくる。


 まぁ、そりゃ冗談として。

 こうも音沙汰がないというのは、どうにも妙だ。


「うーん、何か事情が変わったのかね」


「事情ですか?」


「たとえば――お父さんの身柄が競合他社に確保されちゃって、発表したくてもできなくなっちゃったとかさ」


「そんな」


 いけない。

 話の流れでつい言ってしまった。


 もちろん、一例だけれども、と、すぐに断りを入れてリカバーを仕掛けた。

 だが、楓ちゃんの顔は見る見る内に気の毒なくらいに青ざめていく。


 すぐに楓ちゃんは、お父さん、と、呟いてうつむくとテーブルに涙を落とした。


 なんだろう、これは、すごい罪悪感ですよ。


 そして、「お前、うちの看板娘をなに泣かせてるんだ」と、リーナの視線が更に強く険しいものへと変化する。


 大丈夫だよ、ただの例だから。

 まだ決まったわけじゃないから。

 そう励ましてはみたけれど。


 いかんせん実際問題として、この線辺りが発表遅延の原因として考えられる要因として、濃厚なのは間違いなかった。


 ううむ。

 こりゃ早急になんとかしなくちゃいけないな。


「リーナ。悪いけど、楓ちゃんの護衛って頼めるかな」


「父さんに頼んでみるよ。腕は鈍ってないはずだ」


「ヒュンケルさんか。なら心強い」


「ライカンスロープが大挙してやってきたら、どうか分からないがな」


「あれから再契約している時間はないと思うから、たぶんそれは大丈夫だろう」


 よし、と、俺は膝を叩いた。


 戦国三英傑の中で、一人選ぶなら豊臣秀吉だ。


 鳴かぬなら、鳴かせてみせようホトトギス。

 来ないなら、確認しに行こう、むこうの状況。


 俺は一旦、むこうの世界に戻ることを決めた。

 とはいえすぐ今日にもという訳にはいかない。むこうへ戻るにしても、まずは連絡くらいは入れておいた方がいいだろう。


 手紙が届かないなら、こちらから連絡を取るか。


 とりあえず文香に戻ることを連絡して、ついでに、この辺りの経緯を楓ちゃんのお父さんを雇っている会社側にも報告しておいてもらおう。

 それからでもむこうに戻るは遅くはない。


 機械オンチの文香ちゃんだ。

 だがまぁ、PCのメールくらいはやりとりできるだろう――たぶん。


◇ ◇ ◇ ◇


 すぐに文香宛の手紙をしたためて、朝市の便でむこうへと送った。

 それから更に二晩あけての昼。

 ようやく、俺はむこうの世界へ戻るために村を後にした。


 荷物はこちらにやって来た時と同じく最小限だ。

 情報確認のための一時帰国。

 お土産はまた今度と言う奴である。


 こちらにやってくる時に利用した特異点ポーター

 そのついとなっている異世界側の接続点は、リーナの居酒屋がある村から、ここいらでもよく名の知れた衛星都市へと向かう途中の平原にあった。


 古来より、こちらの世界の少数民族が守ってきた、ちょっとした遺跡だ。

 しかし、今はその部族も滅び、むこう側と違って、たいそうな設備どころか屋根もなく、剥き出しになっている。


 行きに、むこうの世界では見ることのなかった接続点――青色の巨大な光の渦――が、環状石柱の中で光り輝いていた。


 ここに飛び込めば、まぁ、向こう側の接続点――行きの転移室とはまた別の、狭義の特異点ポーター、つまりこれと同じ大きな青い渦のある場所――へと飛ばされる。


「しっかしまぁ、ここは楽でいいよな。いろいろと特異点ポーターは回ったけど、五本の指に入るくらいに移動が楽でいいよ」


 強いて難点を言うならば転移先が関西圏――神戸ということだけだろう。


 これが東京なんかの都心部だったなら、また違った展開もあったかもしれない。

 神戸も十分にぎやかな場所だが、それでも所詮は関西である。日本の政治・経済の中心から離れた場所にあっては、異世界転移の利便さも霞んでしまうというもの。


 まぁ、にぎやかになられると、こちらとしては商売あがったり。

 別にこれはこれでいいんだけれどもな。


「さて、それじゃ、行きますか」


 一呼吸置いて、意気込んでみせたのは、思うところがあったからだ。

 というのは、こちらの世界からの帰還というのが、案外曲者なのである。


 先ほど言ったように、こちら側から戻る際には、向こうの根本的な特異点ポーター――青い光の渦のある場所――へと帰還することになる。


 つまり、なのだ。


 こちらに転移する時は、転移室を使うためにどこに行ったか分からないが、戻ってくるときは必ず同じ場所。

 あるいは、違う特異点ポーターを使うこともできる。

 だが、来た時のことを考えてみて欲しい。


 あんな風に、念入りな入出国検査をやっている国がほとんどだ。当人あるいはそのお国に、やんごとない事情でもない限りには、違う特異点ポーターを利用しての帰還は、そう認められるものではない。


 つまりだ。

 異世界へと飛んだ人物が、ということ。

 そこを狙って襲撃をかけてくる暗殺者――なんてのが割と普通に居たりする。


 まぁ、今回の案件はそんな内容ではないから、心配は要らない。

 そしてなんといっても、戻る先は銃御禁制かつ警察権力の強い日本である。


 戻るなりいきなり眉間を打ち抜かれてBADENDなんてことはない。そんなことすりゃ、即取り押さえの、御用御用である。


 やるならまだ、治外法権が適応される、この特異点ポーターの前で待ち伏せるだろう。

 辺りを見渡してもそういう気配は微塵も感じられない。


 大丈夫だ。


「――でもまぁ、考えちまうのは、仕方ないよな」


 えぇい、ウダウダとしていても仕方がない。

 よいしょ、と、光の渦の中へと飛び込めば、世界が白くきらめき、そして揺れる。


 ふわりふわりとした浮揚感と共に、再び視界が開けた。

 かと思うと、俺は行きとはまた違う黒い部屋の中へと降り立っていた。


 相変わらず、壁一面継ぎ目のひとつも見つからない。

 殺風景かつ前衛的な印象の部屋である。

 日本の行政機関は、どうしてこういうデザインが好きなのかね。


「いらっしゃいませ。退出ゲートは正面――緑色のランプの位置にございます。どうぞ異世界での旅をお楽しみください」


 天井から降り注いでくるのはここの職員の声。

 はいはいどうもね、と、軽く返事をすると、俺はその言葉の通りに緑色のランプが輝く入り口の方へと足を進めた。


 その時。


「困るんだよね。勝手に異世界なんかに連れ出してくれてさ。おまけに、雇ったライカンスロープは全滅ときたもんだ。後払いの報酬を払わなくて済んだのは助かったけれど――こっちの迷惑を考えてくれ」


 転移した部屋の隅――緑の光の届かないその闇の中から声がした。

 うすぼんやりと見えるその姿は、白い肌に銀色の髪をした長身の男だ。


 その耳は――よくみると尖っていた。


 いわゆる、典型的なエルフという奴だ。


 口ぶりから事情を察しないほど愚かではない。

 なるほど、ライカンスロープをけしかけられた時から、異世界側に詳しい人物がこの一件には絡んでいるかと思っていたが――こいつか。


 しかし、エルフの異世界案内人ねぇ。

 ちょっとばかり、因果を感じてしまうのは仕方ないだろう。


「わざわざ、日本くんだりまでご苦労なこった。異世界間移動でも疲れるだろうに」


「だな。よほど割がよくなきゃ、こんなことはしない」


「楓ちゃんの寮を襲ったのは君かい?」


「それに答えることに必要性を感じないな」


 だってお前は今から死ぬのだから。


 エルフ男の口元からゆらりと緑色の煙が昇った。

 特殊なフレーバーの煙草ではない。それはいわゆる魔力筒と呼ばれているモノだ。形状は大小さまざま、模様や形も好みによりけり。

 統一規格はないけれど、用途はいたってシンプル。


 むこうの世界に満ちている魔素、それを一時的にストックし、必要に応じて体内に補充ためのものである。


 大気に魔素が満ちている向こうと違い、こちらの世界には魔素が一切存在しない。

 そのため、こちらに来た時点で、向こうの魔法使いは使


 だがしかし、こうして直接体内に魔素を取り込むことにより、異世界側と同じ環境条件を強制的に作り上げる。


 こちらの世界からむこうの世界に銃が持ち込めるのと同じように、むこうの世界からこちらの世界に来る人間たちも。というのは、異世界間が対等な関係であるという建前を考えたとき、別に理不尽な話ではないだろう。


 剣・ナイフ・斧といった類は、当然ながら文明的ではないと許可されていない。

 だが、これ――魔力筒だけは例外として認められている。


 ずいぶんと、回りくどくなってしまったが……。


 つまるところ、こいつは魔法使いという奴だ。

 そして、今、そのお得意の魔法で、俺を暗殺スイープしようとしている。


「おいおいおいおい、ちょっと待てって!! 特異点ポーターで魔法はまずいだろう!!」


「大丈夫さ、証拠は一つも残さない」


「大丈夫なもんか!! お前、入出国の人数が合わなかったら、絶対に問題になるだろうが!!」


「用事があって特異点ポーターから異世界側に戻った。そう私が証言すればいい」


 やれやれ、随分と強引に話を進めてくれる。

 暗殺スイープするにしてももっとスマートにやれないのか。


 彼の口から漏れ出した、魔力が形を成してくる。

 どうやら、大量にその魔力筒に魔素を詰めてきたらしい。


 魔法使いの術によって成形された純粋な魔力の塊、極彩色のイミテーションゴーレムができあがる。質量へと魔力を転換するのは、意外とこれが難しい。

 目の前の魔法使いの実力は、まぁ中級以上はあるだろう。


 やれやれだ。

 これだけの魔法を使う相手と、無尽蔵に魔素をかき集めることのできるむこうの世界で、やりあうことにならずに済んだのは僥倖とも言えなくはないな。


 ただ、できることなら、こちらでも会いたくはなかった。


「ライカンスロープ相手に、銃で異世界無双するのは楽しかったかい。さざそっちで楽しんできたんだ、こっちの世界では魔法で無双されても文句を言うなよ」


「やれやれ――エルフが異世界無双とか言い出したら世も末だね」


「黙れよ。だいたい異世界人お前らがいけないんだろう。銃にしろ文明にしろ、こっちの世界の住人はむこうにいろんなものを持ち込みすぎた。おかげで、むこうの世界の国の有り様は、ここ十年でまるで変わった」


 純粋な憎悪の瞳が、俺の顔へと突き刺さる。

 異世界文化の流入により、滅びた国に住んでいたのだろうか。

 かわいそうにな。こればっかりは同情するよ。


 国連による異世界への武器の輸入規制などが本格的にされる前は、結構、無茶な品物がむこうに持ち込まれて、国が滅ぼされたこともあった。


 流石に、相互理解が深まった現在では、相応な技術・魔術の流入はお互いに控えようと、取り決めがされるまでには至っている。

 だが、特異点ポーター出現による暗黒の時代というのも確かにあったのだ。


 けれどもまぁ。なんにしても、お気の毒さまとしか言いようがない。


 もとより、むこうの世界は緩やかな領土問題を抱えており、こちらの世界の介入がなくとも、国の勃興自体はそうそう珍しい話でもない。


 八つ当たりというものだろう。

 あまり真に受けたところで、どうなるものでもない。


「とにかく、こちら側に戻ってきたのがお前の運の尽きだ。ボディーガードの高島翔だっけか。悪いな、ここで死んで貰う」


「あぁ、なにそのテンプレな感じの台詞」


「……はぁ?」


「もっとこう、無言でイミテーションゴーレムをしかけるとか、そういうのないの。俺ね、これでもハードボイルド小説が好きでさぁ。それじゃ、よくあるネット小説じゃないか。あれは――正直、嫌いなんだよね」


「五月蝿い!! とにかく、お前を始末したら、後は向こうの娘だ!! 恨むのなら銃規制をしている日本政府を――」


 俺は静かに、そして、ハードボイルド小説の主人公にでもなったような気分で、を口に咥えこんだ。


 リーナの親父さん――ヒュンケルは元冒険者だ。

 今は、俺や眼の前のこいつみたいなやんごとない事情を抱えた相手の、ちょっと特殊な道具屋を営んでいたりする。


 これはそんな彼が、丹精こめて、魔力を多く含んだ葉タバコを、一枚一枚丁寧に巻き込んで、糊付けてして作った一品だ。


 使い方はいたって簡単。

 吸い口を切り裂き、ライターで反対側を炙る。

 そうすると、煙と共に魔素が口内から体中に充満してくる。


 要は葉巻と同じ原理の魔力筒――しかも高級品だ。


 漏れ出る魔力の光は紫色。


 紫煙と、タバコの煙を表現しだしたのはいったい誰なんだろう。

 こんな風に、キツイ紫色をしている煙はそうないだろうが、まぁ、それはいい。


「何故だ!? お前、こっちの世界の住人じゃ!?」


「さてね、なんででしょうかね」


 一気に、口の中に魔力を吸引する。

 口腔から、葉巻より取り出した魔素を全身に充満させると、俺は右手を、その闇の中に待ち構えている男に向かってかざした。


 


 服の中に仕込んでいた幾つもの明星の冠――朝方に大きく成長するむこう側の植物――の種。それが一斉に芽をふいたかと思えば、腕の先にいる男に向かって踊るようにして襲い掛かる。


 すぐに、イミテーションゴーレムで身を守ろうとしたが。

 やれやれ、ここに至ってもこの魔法使いは浅はかだ。


「敵の力量を見誤ったね。どうして、魔力筒から一気に魔素を引き出した。スローバースト、俺の魔法筒は、まだまだ魔素を残してるぜ」


「くそっ!?」


「魔法筒ってのはさ、ゆっくり味わって使うもんだぜ、異世界初心者ルーキー


「そんな、どうして――こんなことがあってたまるか!!」


「異世界帰りの暗殺スイープなんてお決まりじゃないか。戻ってきたところを殺す。それを考えない異世界転移者なんてのは、まぁ、世代もあるだろうけどだね」


 殺されてるから用心する、ってのも、あるがな。


 筒にためていた魔素が切れたのだろう。

 イミテーションゴーレムの姿が消える、明星の冠へとその体を男が覆われる。


「大丈夫。殺しはしないさ。なぁに、ちょっと事情を聞かせてもらうだけだ」


 魔素の残りで、更に麻痺魔法と気絶魔法をかける。

 仕上げに透過魔法でその姿を隠すと、よいせ、と、俺は魔法使いを肩に担いだ。


 魔素が完全に抜け切った魔法筒を、灰を落として消火する。魔素は抜けたが、香りは抜けきっていない。専用のケースへといれ、胸ポケットの中にしまった。

 まぁ、普通に嗜好品としても上等なものだ――火を消したことで味は落ちたが、それでも十分楽しめる。


 文香の奴が臭い臭いと五月蝿いから、吸える場面は限られるけど。

 今日も帰ったら、きっと色々と言われるんだろうな。


 さて。


「まぁ、こいつを尋問すりゃ、それで終わりだが――はついたな」


 実に上手く食いついてくれたものだよ。

 よっぽどこの半人前の異世界案内人を信用していたのかね。

 バカだなぁ、まだ、百歳にもなっていない、餓鬼のエルフにいったい何を感じたってんだろうか。


 まぁ、そこんところを一つご教授してやるついでに、楓ちゃんのお父さんを救いに行くとしましょうか。


 当初の予定通り、緑色の蛍光灯が光る特異点ポーターの出口へと向かった。


 部屋を出ると通路は二つに分かれている。

 左手が入国、右手が帰国の受付をするための通路だ。


 当然、俺は迷わずへと進んだ。

 すぐに行きと同じように、ここの職員さんが立っている入国審査所のカウンターへと辿り着く。


「おいでませ。ようこそおもてなしの国、日本へ」


「……はい。ありがとうございます」


「身分証名称をお見せしていただけますか?」


「……これ、どうぞ」


 俺は用意していたもうひとつの身分証明証を、いかにもこちらの文化に慣れしたしんでいない異世界人という様子で差し出した。


 はっと、職員の顔が華やぐ。

 これはまぁ、なんだ、いつものことだ。


「フューリィさん!! すごい、エルフなんですね!! 私、エルフの異界人なんて始めて見ました!!」


 きゃあ、と、仕事中にも関わらず、はしゃいで見せる受付嬢。

 行きの時の職員と違って、幾分若いしどうもミーハーなところがあるみたいだ。

 これくらいの方が、おもてなしされるほうとしても、気分が良かろうと考えての人選だろうか。

 それともただの天然か。


 考える余地はいろいろあるが、まぁ、どうでもいい話だな。


「あれ、けど、耳がとがってないような」


「整形したんです。エルフは、人間社会で生きるのが、大変ですから。こちらの――特に日本の、整形技術は、大変すばらしいですね」


「あぁ、そうなんですか。では、今回の訪問も」


「えぇ、ほんのちょっと、だけ、鼻を短くしようかと」


「なんだかもったいないですね」


 いいえちっとも。


 妹とあいつとの友誼に比べれば。

 俺の耳の先の価値なんて、たいしたことないさ。

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