第4話 サブリナママのクリームチーズケーキ・アゲイン その5


 ♠



「って、あいつなに、君を置いて出掛けたのか?」

〈女放り出して何やってんだポンコツ狼め。って、あいつマシキュランのマナと付き合ってんじゃなかったのかよ。また浮気か?〉

「ボクが分からないの?」

 女が言った。

 色の薄い瞳に、困惑の色が浮かぶ。


〈困ったな、どこかで会った事があるんだ!!〉


 頭をポリポリと掻きながら、彼女の顔を見た。

 確かに見覚えのある顔だ。

 大きな眼に、くっきりとした眉。

 真っ赤な髪に、見慣れない真っ白な肌。

「あ~っと、どこかで会った事はあると想うんだけど、ごめん思い出せない」

「も~っ」

 ガックリと肩を落とした女が、大きく口を開いて、自分の小指で左右に広げて見せた。

ほりぇれれわらっらこれで分かった!?」

 白く輝く太い牙があらわになった。

「シェリー!?」

「そうだよ、バカ」


 ぷん


 と、そっぽを向いた。

「なんで肌が白いんだ?」

 当然の事をハンゾーが訊いた。

「へっ?」

「いや、へっ? じゃなくて。なんで肌が白くなってんの」

「シャワーを浴びたんだよ」

 髪に櫛を通しながらシェリーがキョトンとした眼を向けた。

「シャワー浴びたら、色が白くなるのかシェリー!?」

「そりゃ日焼け止めが落ちるから、地肌が出るし」


「日焼け止め!?」


「そえ日焼け止め」

「あの緑色は、日焼け止めの色なのか!?」

「なに? ハンゾーは、オークの肌は天然で緑だと想ってたの!?」

「うん」

 シェリーが笑った。

「ボクたち哺乳類ほにゅうるいだよ。恐竜やトート人じゃ無いんだから、天然で肌が緑色のわけないじゃない」

「いや、そーゆー構造色こうぞうしょくなのかと想ってた」

「構造色? 構造色って」

「えーっと、あーっと、なんて説明すりゃ良いのかな? そうだドニの彼女が青く見えるのと同じ原理だよ」

「ボクを、マシキュラン扱いすんな」

 ズイッと顔を突き出してシェリーが言った。

 そして笑った。


「それで時々、灰色の肌をしたオークがいるのか」

「灰色?」

「そうだよ」

 バスルームに向かいながらハンゾーが答えた。

「なんで灰色なんだろ?」

「それを言うなら、なんで緑色なんだ」

 シャワーを浴びながらハンゾーが訊いた。

「なんでって。緑色は神聖な色だからだよ」

「神聖?」

 数千年を地下世界で過ごしたオークが、マシキュランによって新天地に送り出された時。

 彼らか最初に眼を奪われたのは、森の緑の青さであったという。

 以来、緑はオークに取って神聖な色となったのだ。

 ちなみに。

 タスクフォースは異世界を探訪する、マシキュランの護衛としてこの時に結成されている。

 緑の肌の最強軍団は、オークの恩返しによって生まれたのだった。



 ドドーン!!



 ♠


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