第6話 ドニとオンボロ自動車 その2
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肩に担いだバッグを
「シーランスの水中ドームって、どーなってんだ?」
「あれでしょう。凄いわよね、マシキュランの技術って。海底にあんな透明度の高いドームを作っちゃうんだもん」
シーランスは人魚の世界だ。
惑星の90パーセントが海で、地表はほんのわずかしかない。
海中に造られた透明ドームステージで公演されたホワイトレイブンの舞台は、即日ソールドアウトの連日大入り満員。
詰めかけた1万を超す人魚たちは、舞台終了とともに一斉に逆立ちして
「あれどーなってんの?」
「知らないわ。なんでも海底に300を超えるフォースフィールド発生器を設置して、それで七重のバリアーを張ってるって言ってたけど」
「マナは分かる?」
ルネとハンゾーの会話に耳を傾けていたマナに声を掛けた。
「ワタシも分かりません」
「マシキュランなのに?」
「はい。ワタシは役者で、科学者ではありませんから」
「「なるほど」」
「おはよ~」
妙に納得した二人をドデカい影が
「おはようオスカル」
「ようオスカー。なんだ朝帰りか?」
眠そうにアクビをする青白い顔は、徹夜の疲れからか、いつもより更に青く見えた。
「そうなんだ。オールナイトで映画を観た後、ナイトクラブに行ってね」
「一人で?」
「まさか~、わたしと一緒よ」
オスカルのドデカい肩に乗る小さな人影が鈴を鳴らすような涼やかな声で言った。
「「エミリー!?」」
「ハァイ」
「⋯⋯なに? 復縁したの!?」
左右をキョロキョロと見回しながらルネが訊いた。
「いやいや、そーゆー訳じゃないんだ」
ブンブンと
「映画館で偶然ね」
「アンリミテッド・ウォーよ」
「ああ、リベンジャーズの新作の? なんか凄い人気よね」
「そうそう大人気。それで夕べ観に行ったんだけど、ハーフリング席が満員でね、次の回を待とうか悩んでたら――」
「丁度僕が通り掛かったんだ」
「で、オスぴーが僕の肩に乗って観たら良いよって、ジャイアント席を取ってくれたの。わたし、シアターの最後部で映画を観たの初めて!!」
きゃーっと嬉しげに叫んだエミリーが、オスカルのドデカい頭に抱きついた。
「で、その後、ナイトクラブに行って。いま帰るとこなんだ」
アクビをしながらオスカルが説明した。
「ふ~ん、仲良いんだ」
ルネがちょっぴり恐い眼をオスカルに向けた。
『いったいどーなってるの?』
二人に聞こえないようにハンゾーに訊いた。
『ちょっと、色々あってね』
『それも後で説明して!!』
『了解』
「ね? 今からどこかへ出掛けるの?」
ルネの大荷物を見たエミリーが訊いた。
「違うの。いま帰って来たところよ」
「あ、そっか。シーランスで公演だったのよね。向こうどうだった?」
「良かったわよ~。シーフード美味しいし、ホテルも
「ドリフトボールは見たの?」
「見た!! 見た!! プールサイド
「「プールサイド!!」」
ハンゾーとオスカルが同時に叫んだ。
「どーしたのよ?」
「オスぴーも、ドリフトボールのファンだもんね」
「プールサイド席は
「そう。水しぶきを浴びながら観戦するなんて最高じゃないか」
「でも、なんでオクトパスみたいな弱小チームが好きなの?」
エミリーが小首を傾げた。
「チーム・オクトパスは最高だ!!」
ハンゾーが声を荒げた。
「なあオスカー」
「うん、オクトパスは最高だよ」
「万年最下位じゃない」
ルネが呆れたように言うと。
「今はチームを再建してるツラい時期なの!!」
「わたし、ソードフィッシュが好き」
「あ、私も!!」
「「ソードフィッシュ!!」」
「なによ」
「あんな有力選手を引き抜いてでってあげた、
「オクトパスは2000年の歴史を持つ現存する最古のチームだよ。伝統が違うよ」
「伝統や歴史で勝てるんだった世話ないわよ。でも強いのはソードフィッシュとブラックシーよ」
「ソードフィッシュの何が良いんだよ?」
「チーム環境ね。オクトパスのリードブロッカーだったアンジェリカだって、ソードフィッシュに移籍してから生きいきしてるじゃない」
ハンゾーとオスカルが二人して天を仰ぎ、
「彼女の抜けた穴はデカいなオスカー」
「⋯⋯ああ、計り知れなく大きいよ」
それを見たルネとエミリーが、呆れたように肩をすくめた。
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その3へつづく♥
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