第6話 ドニとオンボロ自動車 その1


 異世界♥F・r・i・e・n・d・S前回までは。


「ってのが、新作の冒頭らしいんだわ」

「死んだよな、オスカー」

「死んだ、死んだ」

 ドニの新作映画が決まり。

 エレベーターがストップし、三人が非常階段に閉じ込められ。

 ドニの腕毛を生体金属が巻き込んだ。


「ねえ。今度こそ私の出番はあるんでしょうね?」


 ルネさん喉元に食いつくのは勘弁してください。



 ♠



 カフェ《石の王国》

 と、書かれたウィンドウの前に、蒼く輝くメタリックボディを見つけて、ハンゾーは声を掛けた。

「はいマナ。今日もキレイだね」

 クルリと顔を向けたマナが、ニコリと微笑んだ。

 瞳の無い眼が笑みの形に崩れている。

 見た目は無機質むきしつなのに、表情はとっても豊かだ。

「おはようございますハートーリーさん」

「ハンゾーでいいよ。ところでドニは? 今日は一人なのかい!?」

「はい。ワタシに見せたいものがあるから、外で待ってて、と」

 ハンゾーが呆れたように頭を振った。


「こんな寒い場所に一人で待たせるなんて、なに考えてんだあいつは」

「あら? 大丈夫ですよ。ワタシ、マイナス250度までなら防護服無しで動けますから」

「あ、そうなの」

〈マイナス250度って⋯⋯〉


 水素が液体になる温度です。


 日曜日の朝の大通りは、交通量もまばらで閑散かんさんとしている。

 普段は通勤ラッシュの人混みと、けたたましいクラクションに溢れた路面を、秋の優しい日差しが作った長い影が這っていた。

「はい、これ」

 ジョルジュの煎れたココアをハンゾーが差し出した。

「ありがとうございます」

 渡したは良いが、この口でどう飲むんだ?

 ハンゾーが、そう想った矢先。

 カップを持った方とは逆の手で、マナが口元を押さえた。


 途端。


 マナのつるんとした鼻の下に、ぷっくりとした形の良い唇が現れた。

「ええっ!!」

「どうしました?」

 にこりと微笑んだ唇の奥に、真っ白な歯まで生えている。

「口が⋯⋯」

「普段はマスクで隠してるんです」

「あ、マスク」


〈いやいやマスクって。下顎全部付け替えてなかったか!?〉


 色々疑問はあるが、質問をするのも失礼な気がしてハンゾーが話題を変えた。

「ドニのヤツ遅いな」

「そうですね。約束の時間から30分遅れてます」

「30分も」

「はい。――ところで、ハンゾーさんは日曜日の朝からなにを?」

「オレ? オレはルネの出迎えだよ」

「まあ、ルネさんの」

「今日シーランスから帰って来るんだ。荷物が多いとかでり出された」

「まあ」

「本当ならドニの役目なんだけど、連絡が着かなかったんだよ」

「シーランスって、人魚の国ですよね」

「ああ、そうだよ。ドリフトボール発祥はっしょうの地だね」

「行かれた事はあります?」

「いや、まだ一度も。っと、着いたな」


 石の王国の前にタクシーが止まり、携帯を片手にがなり立てるルネが降りて来た。

「だから何度も言わせないでよパパ。私はここの暮らしが気に入ってるの!! ――え? なに? 親子が別れて暮らすな!? 私もう124よ。いつまで子供だと⋯⋯ そうねドニは確かにそう。でも、私とドニは違うでしょ。あぁ、もう着いたから切るわよ。ええ!? 人を待たせてるの、もう!!」

 電話を切り、タクシーのトランクから荷物を取り出してるハンゾーに駆け寄った。


「せっかくの日曜日だってのに、こんなこと手伝わせて。ごめんねハンゾー」

「いいさ、気にするなよ。シーランスでの公演お疲れさま」

「お疲れさまです」

 ハンゾーのかげに隠れてたマナーがぺこりと頭を下げた。

「まあマナー。久しぶり⋯⋯」

『口があるわ』

『生えたんだ』

「どうしました?」

「いや、なんでもないの」

「こっちの事だよ、マナ」

『後で詳しく教えて』

『了解』


 ♠


 その2へつづく♥




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