第6話 ドニとオンボロ自動車 その3


 ♠



「ルネー」

 両手を振りながら駆け寄ったアンドレアがルネに抱きついた。

「おかえりルネ。ごめんね出迎えるのが遅くなって」

「アンディ。ただいま~。こっちこそごめんね日曜日なのに」

「いいわよ、いいわよ。それより荷物が多いって聞いてたから、助っ人呼んだけど良かったかしら?」

「助っ人!?」

「うん。ドニとシェリーもいないし。わたしとハンゾーだけじゃ運べないと思って」

 チラッとオスカルを見た後に、ぷいっと顔を背けた。

『何があったのよッ?』

 ハンゾーに語気を強めて耳打ちした。

『あとで話すって』

「あ、来た来た。こっちよ~ロルフ~」

「ごめんよ、まだこっちの地理に慣れなくて道に迷ってたんだ」

「そうなんだ。電話くれれば良いのに」

「うわ~」

 と、エミリーが感嘆の声を上げた。

「あたし、ミノタウロスに会うの初めて」

「僕もだ」

「私も⋯⋯」

「オレもだ」

「みんな。彼がロルフ」

「どうも」

 巨大な角を持つ、巨大な人型の雄牛がぺこりと頭を下げた。

 礼儀正しい雄牛である。

「ロルフ。みんなよ」

「おい、それはないよ」

「私はルネ。よろしくねロルフ」

「あああああ」

 突然ロルフが大声を上げた。

「なに? なに!? どうしたの!?」

 瞬時に黒豹姿に変身したルネが、真後ろに五メートルもジャンプして距離を取った。

「黒豹のルネさんだ」

「へ?」

「いや~、ぼく大ファンなんです。シーランスの公演も生中継で観てました。最終日のビリオンバブルの喝采で画面が見えなくなる所なんて、もう。涙が止まらないほど感動しました。ああ、思い出しただけで涙が」

 そう言って、チーンとハナをかんだ。

『いい人みたいね』

『うん』

「ねえ、ねえ、二人は付き合ってんの?」

 オスカルの肩に乗ってるエミリーが無遠慮に聞いた。

「ええ。もちろん」

 アンドレアがロルフの手を取りながら言った。

「ふ~ん、そーなんだ」

『いったい、どうなってるのよ!!』

 ルネがハンゾーの肘を抓った。

『痛いな、やめろよ』

『私たちの親友が、最高のカップルになる予定だったのよ』

『仕方ないだろう。ちょっとした行き違いというか。ボタンの掛け違いがあったんだよ』

『私がいない間に何があったのよ、もう!!』

「ねえねえ、牛さん」

「なんだい」

 牛呼ばわりされても、ひとつも嫌な顔をせずにロルフが応えた。

 出来た雄牛だ。

「凄く角がきれいだね。何かケアしてるの?」

「これかい!?」

 照れ笑いを浮かべたロルフが、アンドレアの肩をポンと叩いた。

「アンがネイルケアの要領で磨いてくれたんだ」

「アン?」

 オスカルがピクリと眉毛をくもらせた。

「うん。彼女が、そう呼んで欲しいって。どうかしたかい?」

「いや、なんでもない」

 言葉を切り上げて、所在なげに後ろ頭を掻いた。

「ねえ。もっとよく角を見せてくれない」

「いいよ~」

 頭を下げたロルフの角をしげしげと眺めてたエミリーが言った。

「肩に乗っても良い?」

「もちろん」

 ロルフの肩に乗り、角を撫で回したエミリーの眼がキラリと輝いた。

「ねえ、アンドレア。これってあなたがやったのよね」

「え、ええ。そうよ」

「これってさぁ。新しいビジネスになるよね」

「へ?」

「だってさあ有角人ホーンドって凄く多いけど。こんな風に角を飾ってる人って、見たことないじゃん」

 ハンゾーとオスカルが顔を見合わせた。

「「確かに」」



 ♠



 その4へつづく♥



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