第6話 ドニとオンボロ自動車 その5
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「指ささないでよ」
「どうしようルネ、どうしよう」
「そうと決まれば後はスタジオね。――ルネ、お願い。アンドレアにお金貸してあげて」
エミリーの出し抜けな提案に、アンドレアが眼をパチクリさせた。
「ちよっ、ちょっと急に何を言い出すのよ」
「だってマチルダ・スワンとジェームズ・アイアンサイドを迎えるのよ。ちゃんとしたスタジオじゃないとダメじゃない。あなたの勤めてるネイルスタジオに呼べる」
「呼べるわけないじゃない」
「でしょ~、だったらそれなりのスタジオを借りなきゃいけないし。時間も無いし、それならお金を払うしかないじゃない」
「お金の貸し借りって、友情を壊すのよ。わたし取ってはビジネスより、ルネとの友情の方が大切だわ」
「お金は貸せないわ」
ルネがぼそりと呟いた。
「ほら。ね、これで決まり」
「でも使ってないスタジオがあるから、もしアンディが使うんなら、格安で貸してあげても良いわ」
きっぱりとルネが言った。
「ルネ~⋯⋯」
「わっ、わっ、わっ、それってどこにあるの」
「ハブには無いのよ。あるのはハリスなんだけどね」
「わ、ハリス。芸能文化の中心地じゃない。しかも、異世界映画祭の開催地」
「ルッネ~⋯⋯」
「立地は? 立地」
「ここよ」
携帯で地図を表示した。
立体映像で映し出された地図を見て、さらにエミリーが
「すっごーい、駅前じゃん。しかも、ゲートのすぐ近く。最高の立地よ。なんで、こんなスタジオ持ってるの?」
ルネが肩をすくめた。
「私のってより、パパが買ったばかりのスタジオなのよ」
「シメオン監督の?」
ルネとドニの父シメオン・ワロキエは多次元世界でも指折りの映画監督である。
ジャジャーン
「さっきの電話って、もしかして、それ?」
「そーよ。ハリスにスタジオ買ったから戻って来いってうるさいのよ。いい加減子離れしろっての!!」
「え、じゃあルネのじゃないの? だったら~」
「名義は私だし、私の持ち物を私が誰に貸しても問題ないわよ」
「アンドレア。いま通ってるネイルスタジオって、20番街よね」
「ええ、そうよ」
地図を見ながらなにやら呟いてたエミリーが、指折り何かを計算し始めた。
「やっぱり」
「やっぱり。なに?」
ロルフが訊いた。
「いま勤めてるスタジオに通うより、この新しいスタジオに通う方が通勤時間が短いの」
「え、あ~⋯⋯、でも、道具もないし。一流のタレントの角を扱うんだから、それなりの道具を揃えないと」
「あら、急な話を持ちかけたのは向こうなんだし。事情を説明すれば良いでしょ。今はスタートを切ることが大切なのよ」
胸の前で手を組んだアンドレアが、泳ぐ眼で周囲を見渡した。
「もう一度言うけど。やるべきだよアン」
ロルフが
「こんなチャンスは一生に一度のことさ。当面の運営資金なら、ぼくも
「ロルフ~」
なんとも煮え切らないアンドレアの態度に、いい加減じれったくなったルネが黒豹に変身して詰め寄った。
「やるの? やらないの!?」
アンドレアがキョロキョロと周りを見た。
「みんな、みんなは、どうしたら良いと想う」
ハンゾーが小さく頷いた。
「オレはロルフに賛成だ」
ルネに眼を向けた。
「私は最初から賛成よ」
最後にオスカルを仰ぎ見た。
胸の前で組んだ指先が真っ白になるほど、強く握りしめている。
オスカルとお揃いのドラゴンを
蒼く潤んだ瞳は、恐怖と不安に細かく震えていた。
オスカルが、そっと視線を外しながら言った。
「僕は反対だな」
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その6へつづく♥
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