第6話 ドニとオンボロ自動車 その6


 ♠



「エエエエエエェェェ、なんでよオスぴー」


 空咳からぜきを一回したオスカルが重々しく口を開いた。

「アンドレアにその気がないからさ。みんなに背中を押されて、手を引っ張られて始めた所で。当人にやる気が無ければ、何事も成功なんてしないよ。それなら今のままで⋯⋯」


「やるわ!!」


「えっ?」

「わたしやる!!」

 立ち上がったアンドレアがキッとオスカルをにらみつけた。

 さっきまでしおれていた耳も、ドラゴンの角のように佇立ちょりつしている。

「そうと決まったら早速スタジオを開かないと、今の職場にも退職届けを出して。アァァァァ⋯⋯、何から手を着けたら良いの」

「その辺は私にまっかせなさい。全部やってあげる」

 と、エミリーが胸を張った。

「何を言ってるの、素人に任せられる訳ないじゃない」

「わたし、素人じゃないわよ」


「「えっ」」


 ルネとアンドレアが同時に疑問の声を上げた。

「エミリーは、その企業コーディネーターなんだ」

 オスカルが呟くように言った。

「あっ!!」

 ハンゾーが大大声を上げた。

「もしかして、エミリア・ブランチャード!?」

「ご名答~♥ 正解のハートリーくんに100点を差し上げます」

「エミリア・ブランチャードって?」

「知らないのか? オルドフィード大学院の経済学部を主席で卒業するや。数々の企業のコンサルタントを勤める才媛さいえんだよ」


 ルネとアンドレアがまじまじとエミリーを見た。

「ねっ!! 何かが始まる時ってこんなモノなのよ。経理からプロモーションまで全部わたしに任せて。あとはアンドレアの腕次第。どう転ぶかは、始めてみないと分からない」

 エミリーが両手を広げてみせた。

「でも、さすがオスぴーね。アンドレアの性格を分かってるから、敢えて反対の事を言ってやる気を起こさせるなんて」

「そーだったのか~、ぼくはてっきり本気で反対してるのかと想っちゃった」

 ロルフがブフブフ言いながらオスカルの肩を叩いた。


「いや、僕はそんなつもりじゃ⋯⋯」

 ポンポンとハンゾーがオスカルの腰を叩いた。

『それ以上は野暮だよ』

『分かってるよ』

 ロルフがアンドレアを抱え上げて、その場でクルクルと回ってる。

 それを見るオスカルの瞳は、なんとなくさみしだ。


「いらっしゃい。ハグしてあげる」

 ルネがオスカルの腰に手を回した。

「じゃあ、早速ハリスに向かいましょう」

 エミリーがパンパンと手を叩いた。

「あの」

 マナが、おずおずと手を上げた。

「どうしたのマナ?」

「ドニがやって来ました」

「え?」



 ♠



 その7へつづく♥




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