第4話 サブリナママのクリームチーズケーキ・アゲイン その6


 ♠



「なるほどな」

 全身ドライヤーで一気に水気を飛ばしたハンゾーがバスルームを出た。

 その頃には、シェリーはすっかり元通りの緑色になっていた。

「うん、なんか残念」

「何が?」

「白い肌のシェリーは、新鮮だったからさ」

 冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、ひと口飲んでシェリーに渡した。

「なんでよ、緑色のほうがきれいじゃない」

「普通の日焼け止め使わないのか?」

 改めて訊いた。

「ヒューマンが使ってるヤツ?」

「そうそう」

「肌が荒れるんだよ」

 多くのオークは敏感肌だ。

 オーク専用のスキンケア商品も多い。

 シェリーも古来から伝わる天然素材の日焼け止めを、使っているのだった。

「なんだかもったいないな。せっかくきれいな肌してるのに」


「なっ!?」


 シェリーがびっくりしたようにハンゾーを見た。

「なにいってんのよ、バカ」



 バッチィィィィィィィン



 ハンゾーの肩を叩いた。

 照れてるのか、力の加減がない。

 かなり痛い。

「美白って言葉が、オレの世界にはあるのさ」

 叩かれた肩をさすりながらハンゾーが言った。

「美白ねえ、変なの」

「で、どーしたの今日は?」

「あ~~、アンディとフランキーがさ……」

「なるほど」


 向かいの部屋のドア越しにも、イチャイチャしてる二人の会話が聞こえて来そうだ。

「それで逃げて来たのか」

「せっかくラブラブなのに、割って入るのもなんだし。甘くってさ~、空気が……」

 ささっと普段着に着替えたハンゾーが、シェリーの手を取った。

「丁度良いから、オレにつき合ってよシェリー」

 ハンゾーが言った。



 ♠



 店舗てんぽの屋根に、大きな看板が掛けられて、


《‎Sabrina mamas》


 と大振りな書体で書かれていた。

「サブリナママーズが、正式な店名なのか?」

「そうだよ」

 人気店というから、大行列が出来てると想ったんだが、辺りは静かなものだ。

 閑散としてるといっても良い。

「休み?」

「いや。完全予約制だから、こんなもんだよ」

「そういう事か」

 ハンゾーが一人納得した時、背後でけたたましいブレーキ音がした。


 振り向くと、巨人用の巨大トレーラーが、巨人用道路の路肩に停まっていた。


「こっちよ」


 ドデカい女の声が聞こえたが、姿は見えない。

「ジャイアント用の通用口は裏だから、そっちに荷物を運んでちょうだい」

「サンデーママー」

 駆け寄ったシェリーが、その人を抱き上げた。

 子猫ぐらいの背丈の、上品な見た目の老婆だ。

「シェリーちゃん!! いらっしゃいませ~」

「また注文に来たよ」

「あらあら、まあまあ、うれしいわ~、どーそ、どーそ、おあがんなさい」

『なあ、サブリナママーズって、コロポックルの店なのか?』

 サンデーママに聞こえないように、小声でシェリーに訊いた。

「そうだよ」

『って、事は……』


 ♠


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