第4話 サブリナママのクリームチーズケーキ・アゲイン その7


 ♠



〈やっぱり〉

 アンティーク調の家具で飾られた店内は、床が観葉植物で覆われ森のようになっていた。


 テーブルに煉瓦積みの階段が組んであり(ミニチュアサイズ)


 テーブルとテーブルを渡る吊り橋が幾つも渡してあり(ミニチュアサイズ)


 カウンターの上に家(ミニチュアサイズ)

 切り立った断崖を思わせる棚の上にも家。

 カラフルな屋根で飾られた、家、家、家。

 見渡す限り家ばかり。

 全てがミニチュアサイズのコロポックルタウンになっていた。


〈あ、列車が走ってる〉


 レトロな外観のミニチュアトレインが、



 シュッポ、シュッポ、シュポッポッ・・・



 と、水蒸気の煙を吐き出しながら店内を周回していた。

 おそらくマシキュラン製だ。

 町中では、サンデーママと同じサイズの住人がせわしなく走り回っては、のべつまくなしに喋りまくってる。

 かなりにぎわってる様子だ。


 こっちに気づいた一団が、

「いらっしゃいませ」

「いらっしゃいませ」

「いらっしゃーい」

「何にいたしましょう」

「何にいたしましょう」

「何にする」

 止まらない。


 ミニチュアハウスの扉が開き、次から次にワラワラとコロポックルが出て来る。

 巣をつつかれた蜂のようだとハンゾーは想った。

「クリームチーズケーキちょうだい」

 シェリーが元気よく言った。

「2つね」

「まあまあ2つも」

 胸の前で両手を合わせたサンデーママが、



 きゃー



 と、歓声を上げた。


「そんなに気に入ってくれたの? うれしいわ~」

 語尾にハートが見える。

「ええ、とても美味しかったですよ」

『ボクはひと口も食べてないけどね』

 ハンゾーの肘を抓った。

『まだ根に持ってんのかよ。ホットケーキ20枚も喰ったろ』

『それと、これとは別腹だよ』

『別腹って……』

「あとバタークッキーも1つね」

「まあまあ、、バタークッキーまで!!」

 テーブルの上をドタバタと走って、サンデーママが奥へと消えた。


 どこまで続いてるのか、広いテーブルだ。

 財布を取り出し、会計を済ませようとしたハンゾーが、思い出したように言った。

「所で、サブリナママって誰なんだ?」

 振り向いたシェリーが、何故か眼を剥いた。

「私がサブリナよ」

 ハンゾーからクレジットカードを受け取ったコロポックルが言った。


「あ、そうなの」

 ハンゾーにレシートを渡したコロポックルが、

「あら私がサブリナよ」

「え?」

「あたしだって、サブリナさ」

 貨物列車から袋詰めのバタークッキーを運び出したコロポックルが言った。

 シェリーがハンゾーの手を取った。

「皆さん、サブリナなんですか?」

『逃げるよ』

「はぁ?」

「私は、サブリナ・マンデー」

『これが始まると長いんだよ』

「私は、サブリナ・チューズデー」

「あたしゃサブリナ・ウェンズデー」


「シェリーちゃん!! シェリーちゃん!! お茶をして行きなさい」


 ティーセットを運んで来たサンデーママが、バケツサイズのティーカップにお茶を注いだ。

 その後を、頭の上にお盆を乗せた男コロポックルの一団が続き。

 次から次に、お菓子を運んでくる。

『逃げられないね』

『だな』

「私は、、サブリナ・1月」

「私は、、サブリナ・2月」

 その間も、サブリナママーズの自己紹介は延々と続いていた。

〈こりゃお客が寄り付かない訳だ〉

 納得しながら、ハンゾーがお茶を啜った。



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